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カルテル・ランド (2015):映画短評

カルテル・ランド (2015)

2016年5月7日公開 100分

カルテル・ランド
(C) 2015 A&E Television Networks, LLC

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.7

くれい響

ヘタな俳優より“いい顔”している男たち

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

キャサリン・ビグロー製作総指揮の名に、嘘偽りなし。『ボーダーライン』がままごとに見えるほど、骨太でドラマティック。しかも、女好きの自警団リーダー・ホセや元アメリカ陸軍のネイラーなど、登場人物全員がヘタな俳優より、いろんな意味で“いい顔”をしているのだ。さらに不思議なことに、かなり命懸けの撮影にも関わらず、監督やカメラマンの存在を感じさせないこともあり、劇映画以上に映画的になっており、妙なトリップ感すら覚えてしまう。生首などの残酷描写だけでなく、正義のために発足した自警団が、まさにミイラ獲りがミイラになった後の尋問シーン、そして恐ろしいほどの後味の悪さもトラウマ級といえる。

この短評にはネタバレを含んでいます
清水 節

声高な正義ほど、欲を露わにして堕ちやすい、人の哀れ、世の矛盾

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 麻薬カルテルが残虐非道の限りを尽くすメキシコ国境地帯。無謀ともいえる密着潜入によって、我々は銃弾飛び交う渦中へ引きずり込まれる。政府の無策に業を煮やして起ち上がる自警団。家族を守るべく、勇猛果敢にカルテルへ制裁を加える胸のすく様は、まるで勧善懲悪の西部劇のよう。だがその後の予期せぬ展開にこそ、このドキュメンタリーの真価はある。無秩序な正義は、カオスの中で腐敗し欲望を露わにしていく。高邁な理念を掲げても、人は脆い。声高に正しさを唱える独善的な者ほど、表面を綺麗事で固め、水面下で欲得に呑み込まれていきやすい。人間の哀れ、社会の矛盾。善悪の境界は、限りなく曖昧模糊としていることを思い知らされる。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

メキシコ麻薬戦争の最前線に肉薄する衝撃ドキュメンタリー

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 日本へも身の毛がよだつほど陰惨なニュースばかり入ってくるメキシコ国境の麻薬戦争。その最前線に立つ自警団VS麻薬カルテルの戦いに肉薄したドキュメンタリーだ。
 罪もない一般市民を巻き込むカルテル。その圧力に抵抗しようものなら、男たちは首を切断され公衆の面前で晒し者にされ、女性はバラバラ死体の山の上で集団レイプされ、幼い子供や赤ん坊は岩に頭から振り落とされ叩き殺される。血も涙もなし。
 銃撃戦のど真ん中に入り込むカメラ。その震え上がるような臨場感ときたら!本物だからこそのリアリズム。そして、市民を守るために立ち上がった自警団があっという間に無法者集団へと堕ちていく皮肉。もはや絶望しか残らない。

この短評にはネタバレを含んでいます
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