エルヴィス、我が心の歌 (2012):映画短評
エルヴィス、我が心の歌 (2012)俺は田舎のプレスリー……どころじゃない気迫。
ロマンティックな自己陶酔 VS.身も蓋もない現実。娘をリサ・マリーと名付け、完璧に「C.C.ライダー」を歌うアルゼンチンの工員が、いよいよエルヴィスが寂しい死を遂げた42歳を迎えようとしている。実際にトリビュートバンドで活動しているという主演J・マキナニーの「なりきり」は決して小さくない狂気を湛えている。
いわゆるネタ的なモノマネ芸の中にも、冷やかせぬ「本気」を感じて戦慄する時がよくあるが、理想的な他者と自己像が完璧に同化した時はやはりエクスタシーに達するのだろうか。イニャリトゥの近作で脚本を手掛けた監督のA・ボーは、ユニークな視座から人間の「幸福」について考察した。泣けるし、怖い映画だ。
この短評にはネタバレを含んでいます