アイ・ソー・ザ・ライト:映画短評
アイ・ソー・ザ・ライトライター2人の平均評価: 3.5
伝説のカントリー歌手を演じるT・ヒドルストンが素晴らしい
29歳の若さで急逝した偉大なカントリー歌手ハンク・ウィリアムスの半生を描く伝記映画。最初の妻オードリーとの結婚から亡くなるまでの、およそ8年間に焦点を絞っているのだが、話をドンドンとすっ飛ばしていくため、主要な出来事を時系列で並べただけのダイジェストみたいな仕上がり。テンポは快調だがドラマに深みはない。
ただ、ウィリアムスに瓜二つなトム・ヒドルストンの成りきりぶりは見事なもので、吹き替えなしで挑んだ歌唱パフォーマンスも素晴らしい。自己主張が強くてプライドが高く、しかし寂しがり屋で女好き。クソッたれだけど愛している、なんて女に言わせるだけの色気と魅力を存分に放つ。トムを堪能するための映画だ。
「伝説」より「現実」に肉薄している音楽(家)映画
トム・ヒドルストンがC&W……というと、テイラー・スウィフトとの短期破局が頭をよぎってしまうが(笑)、しかし本作での彼の実直な役作り、自分で歌唱もこなした頑張りには非常に心を揺さぶられた。『ハンク・ウィリアムス物語/偽りの心』(64年)では米南部出身のジョージ・ハミルトンが務めたのだから、英国人のハンク役としては快挙の域だろう。
米国では辛めの評価に甘んじているが、E・オルセン扮するオードリーが単にきっつい悪妻にしか見えないなど、伝記映画としての感動や膨らみが足りない点は指摘できるかもしれない。だがこの「美化の無さ」は買いだ。長閑な調べの名曲群の裏にあるゲスな現実の陰惨さは結構リアルに迫る。