しあわせな人生の選択 (2015):映画短評
しあわせな人生の選択 (2015)ライター3人の平均評価: 4
愁嘆場をエンタメ化せず、死をめぐる複雑な想いを呼び覚ます名編
余命宣告。本作は、愁嘆場をエンターテイメント化しない。延命治療を拒否した初老の男を、わずか4日間だけ過ごす古き友人の眼を通し、戸惑いと悲しみを極力表出させずに見つめていく。主たるストーリーは、予め犬を引き取ってくれる新たな飼い主探し。独り身で生きる主人公にとって、それはあらゆる「心残り」の象徴に思えてくる。親しき者を病に奪い去られた者なら、死にゆく友にどう接するべきかという困惑を反芻せずにはいられない。未知の感情に向き合うことになる者もいるだろう。死をめぐる生々しく複雑な想いを呼び覚ます、スペイン映画の名編だ。
気高くない男の、シリアスな数日間
「僕が演じるのは“適当に生きる男”」――主演R・ダリンのこの言葉は作品の本質を射抜いていると思う。チャラい態度のおかげで、それなりに人生のポイントを損してきた主人公。さほど「良い人間」とは言われないタイプの男が最期の時間を迎える。美談や英雄観とは遠く離れたアンチ・ドラマティックな幕引きを丁寧に見つめる映画だ。
実は、ほとんど誰もが「適当」に生き、「厳粛」に死の時を迎えるのだろう。親友や愛犬、元・妻とのやり取りも素晴らしいが、特に離れて暮らす息子と会うくだりがいい。めったに話した事がないし、特に話す事もない。だが存在には心底感謝している。そんな気まずさに包まれた愛の表現が本当にリアルだった。
死もまた我々が向き合うべき人生の一部である
末期ガンで余命幾ばくもない男性と、久しぶりに再会した親友の過ごす4日間…なんていうと、いかにもお涙頂戴の感動メロドラマを連想しそうだが、本作の場合はさにあらず。どこかほのぼのとしたユーモアさえ漂う、酸いも甘いもかみ分けた大人たちの終活ドラマとして仕上げられている。
これといったドラマチックな展開は殆どなし。残される愛犬の里親探しや外国に住む一人息子へのアポなし訪問、浮気相手の旦那との気まずい遭遇など、悲喜交々のささやかなエピソードの積み重ねによって、主人公の歩んだ半生や親友との固い絆が浮き彫りにされ、死もまた我々が向き合うべき人生の大切な一部だと悟らせる。そのさり気なさが魅力だ。