きみへの距離、1万キロ (2017):映画短評
きみへの距離、1万キロ (2017)ライター2人の平均評価: 3
「監視」をファンタジーへと反転させた空想ラブロマンス
テクノロジーが可能にした「監視」というモチーフは、遙か異国の不審者をクリックひとつで一掃する倫理観を問う『ドローン・オブ・ウォー』や『アイ・イン・ザ・スカイ』を生んだが、この映画はプライバシーへの介入という問題を善意で捉え、ファンタジーに反転させる。北アフリカの砂漠地帯を監視するアメリカの青年が、失意の女性と出会う。間を取り持つのは、高性能の眼を有し悪所でも移動可能で多言語翻訳可能な、蜘蛛型監視ロボット。男女を引き合わせるきっかけとなる、事件をめぐる感情描写は疎かだ。しかし時空を超える『君の名は。』よりも現実的な、奇跡の出会いは清々しい。分断をも乗り越える、空想ラブロマンスの佳作である。
遠隔操作の昆虫型ロボットが愛らしい
小さな六本足の昆虫型ロボットが、見渡す限り広がる乾いた土地を少しずつ進んで行く。そのけなげな姿が、どこか清浄なもの、無垢なものを感じさせる。そんなロボット好きにはたまらない光景が何度も見られる。
とはいえ主人公はロボットではなく、ロボットを遠隔操作する青年。彼はデトロイトの警備会社の席で、ロボットで北アフリカの砂漠地帯の石油パイプラインを監視しながら、その近くに住む若い女性に強く心惹かれていく。一方で、スマホのアプリを通して近くに住む女性とも会うが、そこには希薄な関係しか生まれない。人間同士の距離感が、物理的な距離と関係ないものになっていきつつある。そんな現代の人間心理が描かれていく。