オーファンズ・ブルース (2018):映画短評
オーファンズ・ブルース (2018)ライター2人の平均評価: 5
終末的世界のヴィジョンを鮮烈に描く衝撃作。
映画が始まってしばらくしても、何が起こっているのか容易に解読できない。ただ夏の…というか亜熱帯的な空気のなかで、主人公たちは昔の友達を訪ね歩く。しかしどのシーンでも会話らしい会話は成立せず、台詞も短いセンテンスの執拗なまでの繰り返し。ロード・ムーヴィなのに道筋もてんで辿れない。何処とも知れぬ汎アジア的な風景と人物。熱気と湿度を孕んだ強烈な色彩に魅せられるうち、次第にこれが「失われていく記憶」の物語であることが痛切に迫りくる。だが開幕あたりのラジオ音声が気になってもう一度観た。やっぱりだ。これは冬の話であり、例えばワンシーンで引用されもする『汚れた血』のようにこれは一種の抒情SFなのだ。
1995年生まれのサマーソウル
PFFグランプリ受賞、工藤梨穗の京都造形大卒業制作。最も若い層の監督だが、クルーも含め実力は充分。夏の一回性の生々しさを捉えつつ審美性にも優れた撮影。アジア的混沌から海辺まで丹念に選ばれた風景と共にロードムービーが展開する。
タイトルはceroの「Orphans」が由来との事だが、この彷徨える孤児達の姿は中国返還(97年)に際した香港映画のストリート性を想起させた。記憶のモチーフなど表面的には『メメント』だが、自己像が揺らぐ中での他者/世界との繋がりの希求はまさに「青春映画」。元々はSF的構想だったらしく、『わたしを離さないで』のようなディストピアを懸命に生きる子供達のイメージも湧いてくる。