剣の舞 我が心の旋律 (2019):映画短評
剣の舞 我が心の旋律 (2019)ライター2人の平均評価: 3
権力に翻弄される芸術家の苦悩
アルメニアの偉大な作曲家アラム・ハチャトゥリアンの代表作のひとつ『剣の舞』の誕生秘話を描く作品。ただし、「上司から翌日までに作曲を命じられ、たったの8時間で書き上げた」という事実に、架空のキャラを用いて肉付けしているので、半ばフィクションと見做すべきかもしれない。第二次世界大戦下のソビエト時代、因縁の仲である共産党高官の執拗な検閲と嫌がらせに悩まされ、オスマントルコ帝国によるアルメニア人大虐殺が忘れ去られようとしていることに憤慨するハチャトゥリアンが、その思いの丈を『剣の舞』に込める。伝記映画としては食い足りないが、権力に翻弄される芸術家の苦悩は十分に伝わる。
名曲を作ったのは不正義への怒り(と男の嫉妬)!?
誰もが一度ならずとも耳にしているハチャトリアンの名曲「剣の舞」誕生秘話がこんなにドラマティックだとは! ハチャトリアンを一方的に妬んで陥れようとする小役人やストイックな作曲家に恋い焦がれるバレリーナー、忠実なアシスタントなど主人公を取り巻く人物もキャラが立っていて、ドラマを愛憎で盛り上げる(彼らは架空の人物らしい)。しかし強く印象に残るのは、ハチャトリアンの心に渦巻いていたであろう複雑な思いだ。彼がトルコによるアルメニア人虐殺に遡るファシズムの台頭への憤りや上意下達で進むソ連の官僚システムへの反発を抱えていたのは出自を考えれば当然で、不正義への怒りが名曲を作る原動力となったとよくわかる。