おもかげ (2019):映画短評
おもかげ (2019)ライター2人の平均評価: 4
愛する我が子を守れなかった母親の心の軌跡
別れた夫の不注意によって、6歳の息子がフランスの海辺で行方不明となったスペイン人女性。10年後、その海辺近くのレストランで働く彼女は、たまたま見かけたフランス人の高校生に息子の面影を感じ、いけないと思いながらも彼に執着していく。自分の力ではどうしようもない悲劇に見舞われた人間が、どのように過去と折り合いをつけ人生と向き合っていくのか。僅かな希望にでもすがりつかねば生きていけないヒロインの心情は察するに余りあり、それだけに胸を締め付けられるような痛みを伴う作品。その一方、失踪事件の謎が解決されるわけでもなく、あえて明確な答えを出さないまま終わる物語には賛否両論あるかもしれない。
「答え」よりも大切なところへ
小さな息子が突然姿を消し、大きな喪失を抱えた母親が、やがて息子によく似た少年に出会う……。A・ホランドの『オリヴィエ オリヴィエ』(92年)と重なる展開だが、同時にF・オゾンの『まぼろし』(00年)を連想。思えば主要シーンのロケが同じ南仏のランド地方だ。潮騒が聞こえる海辺のリゾート地で、ヒロインが愛の「まぼろし」=「おもかげ」を追い求める。
さらにその奥にはアントニオーニの『情事』(60年)からの残響があるはずで、不条理と抽象性に満ちたミステリーの魅惑(+傷を負った女性が「次」に行くための儀式)は、まさにヨーロッパ映画の伝統的な醍醐味。スペインの俊英監督R・ソロゴイェンの後を引く逸品。