鹿の王 ユナと約束の旅 (2021):映画短評
鹿の王 ユナと約束の旅 (2021)ライター2人の平均評価: 4.5
コロナ禍の今だからこそ見るべき傑作
謎の病が急速に蔓延する某国。身寄りのない少女を守る屈強な元戦士が、パンデミックに乗じた権力抗争の陰謀に巻き込まれていく。『もののけ姫』を筆頭とするジブリ作品のDNAをしっかりと継承した作画デザインの美しさやキャラ造形の魅力も然ることながら、未知の恐怖に対する不安が浮き彫りにする民衆の分断と差別、己の野心のために混乱を煽る権力者の思惑などを織り交ぜつつ、困難な時代における普遍的なヒューマニズムの必要性を訴えるストーリーに強く心動かされる。奇しくもコロナ禍での封切となったことで、そのテーマになお一層の説得力が与えられたようにも思う。今見るべき映画であることは間違いない。
今こそ、大人が見るべきアニメーション
複雑な構造の原作をどう映画化するのか?と思っていたら、なるほど。限られた時間内で描くべきことをソリッドに絞ってきた。
パンデミックとその解決法の模索、人間の間の絆と分断、生と死……現代に通じるそんな要素を原作から抽出。色彩を活かした映像により、それらのテーマは明快に迫ってくる。
削ぎ落したが故に大急ぎで物語を言葉で補完する点は、ファミリー向けのアニメーションとしては理解しづらくマイナスだが、そんな行間ゆえに大人の鑑賞に耐え得る作品となったのも事実。じっくり向き合えば向き合うほど、確かな歯応えを得られる力作だ。