この世界に残されて (2019):映画短評
この世界に残されて (2019)歴史に翻弄される人々の痛みと哀しみ
第二次大戦終結後のハンガリー。ホロコーストで家族を失った16歳の少女と42歳の男性医師が、お互いの心の傷を癒すかの如く惹かれあい、やがて親子の絆にも似たプラトニックな愛情で結ばれていく。といっても、2人の家族がどういう状況で亡くなったのか劇中では一切語られない。それはまるで、今を生きるため過去の記憶をシャットアウトしているかのようだ。少女に至っては両親がまだどこかで生きていると信じている…というより、そう自分に言い聞かせているのだろう。そんな2人のささやかな心の触れ合い。しかし、ソ連の支配が強まるに従って彼らの周囲には再び暗雲が立ち込める。歴史に翻弄される人間の痛みと哀しみを描いた秀作だ。
この短評にはネタバレを含んでいます