おもいで写眞 (2021):映画短評
おもいで写眞 (2021)ライター2人の平均評価: 3.5
おもいで写真が映し出す日本の庶民の過去と現在
夢を追って東京へ出たものの失敗して故郷へ戻り、唯一の肉親である祖母の死に目にあえなかった負い目を負うヒロインが、地元のお年寄りのために遺影の代わりとして思い出の場所で写真を撮ることになる。高齢化と過疎化が進む日本の田舎の厳しい現実を映し出しつつ、若さゆえに頑なで一本気で過ちを許せない主人公が、高齢者たちとの交流を通して世の不条理や人間の矛盾を学び、やがて自身を過去の呪縛から解放していくわけだが、一筋縄ではいかない人生のほろ苦さを温かな人情で包み込んだ丹念な語り口がとてもいい。団地暮らしの孤独な老女・吉行和子のふと見せる笑顔に『キューポラのある街』で演じた若い女工員の姿が重なって切なくなる。
成長物語なら、間違いない熊澤尚人監督作
老人の「遺影」ではなく、場所込みの「おもいで写眞」という設定は興味深い。また、夢破れ、東京から故郷に戻った気が強いヒロインを演じる深川麻衣を愛でるアイドル映画としても悪くない。さすが『ニライカナイからの手紙』以来、ヒロインの成長物語を撮らせれば、ほぼ間違いない熊澤尚人監督作だ。高齢や障がいなどの問題も扱いながら、富山県のご当地映画として観ても及第点だが、熊澤監督と脚本家まなべゆきこの“『君に届け』コンビ最新作”と考えると、やはりパンチに欠ける。テンカラット設立25周年企画作ではあるが、安定なベテランばかりではなく、『mellow』のように若手を起用したら、さらに話に広がりが見えたかも。