ゾッキ (2020):映画短評
ゾッキ (2020)ライター3人の平均評価: 3.3
共同監督だけど漏れ出てしまう個性
余白の多い原作がクリエーターを刺激するのか。アニメ『音楽』に続いて大橋裕之漫画から快作の誕生だ。この手の企画は無難にオムニバスにするのが通例だが、短編を絶妙に絡ませた脚本と3監督のトーンを揃えて長編にまとめた新鮮さ。映画を知る3監督の知識と経験が生かされた実験的かつ挑戦的な企画だ。とはいえ監督が違えば個性が漏れ出ることもご存知。中でも「伴くん」で、牧田が使用済みパンツを偽装するシーンで見せる痴態は齊藤工監督ならでは。この牧田のように総じて”本人は真剣だけど側から見れば滑稽”というエピソードが連なる。3監督の人間を見つめる温かい目線が、はちゃめちゃなようでブレない本作の太い幹となっている。
シュールな笑いの中に漂うそこはかとない哀しみ
原作漫画については残念ながら不勉強なのだが、なるほど、竹中直人に山田孝之、斎藤工というクセモノ3人が集まってメガホンを取っただけあって、なかなか一筋縄ではいかない作品に仕上がっている。複数の短編をひとつにまとめたというストーリーは、初恋の妄想&暴走あり、世にも奇妙な学校の怪談あり、あてどない放浪の旅あり。クスッと笑えるシュールなエピソードの中に、そこはかとなく切なさや哀しみの漂うところがいい。随所に散りばめられたマニアックな小ネタといい、永遠の童貞サブカル映画少年たちがわちゃわちゃしながら撮った作品と言う印象。そういう意味では、観る人を選ぶかもしれない。
狂気を秘めた九条ジョーの怪演
アニメ化された『音楽』に続き、原作愛を感じる大橋裕之作品の実写化。石坂浩二繋がりで「ウルトラQ」なオープニングから、ユルくてシュールな“誰にでも秘密がある”日常を描く3人の監督のセンスがみられ、蒲郡市のロケーションも残るが、いわゆる単館系ノリに慣れてないと、楽屋落ち的に見える可能性も。ドはまりな倖田來未など、ムダに豪華なキャストでも、“いるはずのない友だちの姉”に恋した伴くんを演じるコウテイ・九条ジョーは絶妙! 狂気を秘めた彼の怪演とともに、まったく着地点が見えない齊藤工監督の演出によるエピソードは、“寄せ集め”のなかでもいちばん見応えある仕上がりといえる。