マ・レイニーのブラックボトム (2020):映画短評
マ・レイニーのブラックボトム (2020)ライター2人の平均評価: 3.5
この最後の演技で、オスカーをあげたいという心情はよくわかる
末期ガンの化学療法を受けながら撮影に臨んだことを考えると、ブラックパンサーの凛々しい姿に比べて明らかに痩せこけており、観ていて胸が締めつけられる。そんなチャドウィックの演技、前半は歌とダンスも軽やかにこなしつつ想定内だが、つらい過去を吐露する見せ場には思わず息をのみ、内なる狂気が発露する瞬間は軽く叫んでしまった。
もう一人の主人公マ・レイニーの、人気シンガーとしての過剰な傲慢ぶりは、時代背景と人種差別の実情を考えれば、むしろ清々しい。V・デイヴィスの図太い迫力は、チャドウィック以上のインパクト。演奏される曲自体より、バンドのメンバーの自由勝手な会話がセッションのようで音楽的なのも面白い。
チャドウィック・ボーズマンの才能が炸裂する
今年8月、43歳の若さでこの世を去ってしまったチャドウィック・ボーズマンの最後の作品であるこの映画は、彼の豊かな才能のショーケースと言っていい。伝説のシンガー、マ・レイニーについての話だが、ボーズマンが演じる役はフィクションで、それが彼に大きな自由を与えている。奔放で、セクシーで、エネルギーに満ちていて、人生を謳歌しているように見える一方、心の中に大きなトラウマと怒りを抱えているこのキャラクターから、とにかく目が離せない。マ・レイニーを演じるヴィオラ・デイヴィスのディーバぶりも圧倒。心躍る音楽で魅了しつつ、差別と暴力が人の心に与える傷の大きさも語る、非常に奥深い作品。