雨を告げる漂流団地 (2022):映画短評
雨を告げる漂流団地 (2022)ライター2人の平均評価: 3.5
過去と決別して未来へと歩み出す少年少女の冒険譚
かつて同じ団地で家族同然に育った小学6年生の男女が、取り壊しの決まった団地に友達を連れて忍び込んだところ、気が付くと団地ごと大海原を漂流しており、途方に暮れる彼らの前に懐かしき思い出の場所の廃墟が次々と現れる。今現在に自分の居場所を見出すことが出来ず、過去の幸福な思い出に囚われ続ける者が、想像を絶する困難を乗り越えることで過去と決別して未来へと歩み出す物語。我々人間の直面する様々な問題をシュールなファンタジーの世界に投影しつつ、瑞々しくも溌溂とした少年少女の冒険譚へと昇華した石田祐庸監督の鮮やかなストーリーテリングはお見事。『ペンギン・ハイウェイ』と同様、どこか切なさの漂うところが好きだ。
今起きていることと、かつて起きたこと、そして
取り壊し寸前の誰も住んでいない団地一棟が、そこに入り込んだ子供たち6人だけを乗せて、何もない海原を漂っていく、というイメージの不可思議さ。アニメという手法は、今そこで起きていることと、かつてそこで起きたこと、そこに存在した想いを、同じ質感と同じ重さで出現させることが出来る。それを見ていると、場所というものに想いが宿ることがあるのではないかと思えてくる。
そんな物語を描きながら、画面は、まったく異なる2者を対比させもする。団地一棟という巨大な建造物の硬さと重さ、小学生の身体という小さな有機物の柔らかさと脆さ。その2者の奇妙な共存ぶりと、その2者が嵐の中で衝突し合うダイナミズムも見ものだ。