The Hand of God (2021):映画短評
The Hand of God (2021)ライター2人の平均評価: 5
いちばん近い感触は『ニュー・シネマ・パラダイス』か
作品にやや癖のあるソレンティーノ監督だが、本作は王道の青春ストーリーとして多くの人がストレートに感情移入できるだろう。
冒頭こそ、やや複雑で濃いキャラの家族&親戚関係、イタリア映画らしい“暴走感”に戸惑いつつ、監督が自己投影する十代の主人公が中心になるにつれ、映画の空気が身体になじんでいく。この感覚が心地よい。
恋愛や初体験、将来の夢、家族の悲喜こもごもエピソードを、今のハリウッドでは躊躇する表現も盛り込んで描くところもイタリア映画独特の味わい。
偉大なる先人からの大切な言葉、故郷と自分の関係を音楽の“魔法”も使って訴えるクライマックス……と、いつまでも心に留め、何度も観返したくなる珠玉作。
前半の情景が、後にずしんと心に響く
キュアロンの自伝的映画「ROMA/ローマ」はオスカー作品賞受賞一歩手前まで行ったが、ソランティーノの今作もそこまでの価値十分。前半で時間をかけて描かれる家族の情景は、ひとりひとりがしっかり構築されていて、楽しくも複雑。とくに大きなことが起こらないのにぐっと惹きつけられ、途中から映画のムードが一転すると、それらのシーンがいかに大事だったかが、ずしんと心に響くのだ。そして、サッカー選手ディエゴ・マラドーナがナポリにやってきた年を舞台にする今作のタイトルは、有名なプレイに由来するだけでなく、もっと深い意味をもつこともわかっていく。成熟したアーティストの手による、繊細で、強い余韻を持つ大傑作。