3つの鍵 (2021):映画短評
3つの鍵 (2021)ライター2人の平均評価: 5
もはや巨匠の風格
私映画の異才から、家族をモチーフとした王道の人間劇へ――。ナンニ・モレッティの第一期総決算が『親愛なる日記』(93年)だとしたら、本作は『息子の部屋』(01年)以降の成熟を堂々と示す。喪失と回復。「人生の全てをコントロールする事はできない」ことへの澄明な視座。同時に過去作より他者性が多角的に導入されている。
エシュコル・ネヴォの原作は3つのパートが回想の独白で語られており、映画は設計を大きく改装。結果10年の推移を描く構成になり、諸行無常の感覚も浮上。アルバ・ロルヴァケルが『靴ひものロンド』に近い役で出演していることも驚かされるが、伊映画のベテランも男性性の有害さを注視する時代が来たようだ。
息苦しいほどにスリリングで人間くさい傑作!
N・モレッティらしくない非ユーモラスなつくり。一方で、彼らしい隙のない演出。それは息苦しくもあるが、同時に的確かつ冷徹に描かれた人間模様が深く突き刺さってくる。
家族・友人・隣人という関係性を見据えながら、そこに生じる誤解や悪意が、サスペンスフルに描かれる。関係性の“横軸”だけでなく、時の流れの“縦軸”の構築も見事いう他にない。心の傷は、時として無駄に長い時間を過ごさせるものだ。
“誰も無傷ではいられない”とは原作者ネヴォの弁。それでも人と触れ合わずにいられないのが人間だ。パンデミック以前に作られたとのことだが、人と触れ合いにくくなったそれ以後の世界にも確実に訴える。必見!