靴ひものロンド (2020):映画短評
靴ひものロンド (2020)ライター2人の平均評価: 4.5
それでも踊り続けるしかない人生
秀作だが、同時に怪作の類いかも。「ジェンカ」の軽快なリズムに乗って踊るオープニングに油断していたら、生き地獄の如く持続する夫婦関係の煮え切らぬ重さにぐったり当てられる。1980年のナポリと、その30年後。夫の浮気でメンタルが壊れた妻ヴァンダと、負のエネルギーにずぶずぶ呑み込まれていく家族の肖像。
監督はダニエーレ・ルケッティ。奇しくも盟友ナンニ・モレッティの『3つの鍵』も続けて日本公開されるが、共通要素の多い内容の上、同じくアルバ・ロルヴァケルが心を病んでいく展開に驚かされる。問題の夫アルドがフィッツジェラルドの『夜はやさし』をラジオで朗読するが、彼女は市井のあちこちに居る妻ゼルダのようだ。
ミステリアスな展開に引き込まれる
夫婦関係の崩壊という一般的なテーマを、複数の視点から奥深く見つめる卓越した人間ドラマ。夫の不倫告白から始まった家族の不幸を長いスパンにわたって追っていく中で、夫、妻、それぞれの性格が、よりよくわかっていく。子供たちも同様。それはつまり、それほどしっかりとした、層のあるキャラクターが築かれているということ。時間を行ったり来たりさせながら語る手法もスマートで効果的。その間に何が起こったのか観る者に想像させてどんどんミステリーを高め、意外なエンディングへとつなげるのだ。大人同士の醜い諍いが罪のない子供たちにどんな影響を与えるのかについても考えさせられる。