コット、はじまりの夏 (2022):映画短評
コット、はじまりの夏 (2022)ライター2人の平均評価: 5
愛の大切さを実感させる、静かでニュアンスのある傑作
設定から想像する、よくあるタイプの映画とはまるで違う。両親の揃った家に暮らし、普通に学校にも通うコットは、誰からも愛されていない。そんな彼女を、少しの間身を寄せることになった先の叔母は、しっかりとかまってくれる。叔父はそっけないのだが、なんということのない日常が続いていく中で、悲しみの方が大きかったコットの生活は少しずつ変わっていくのだ。子供にとって、いや、大人にとっても、愛はいかに大切なのか。しかし、決してハリウッド的なハッピーエンドにも、説教くさくもしないこの映画は、感動で泣かせるラストにも、一抹のリアリティを入れてくることを忘れない。静かで奥深く、ニュアンスに満ちた傑作。
この大切な時間が終わらないで…と画面に向かって祈る
アイルランドが舞台だがメインのセリフが“非英語”なのが新鮮。聴き慣れない言語が、逆に普遍性を与えると実感する。
ひと夏、親類の家に預けられる9歳の主人公と、設定はよくあるパターン。その少女と、預かった側の夫婦それぞれが、相手の存在によって心の隙間を埋めていくドラマを、これほど丹念に、愛おしく綴った作品が過去にあっただろうか? 3人に固い絆が結ばれた後、この夏が永遠に終わらないでほしい…と画面に向かって祈ってしまった。
井戸の水汲みや牛の世話といった日常を、優しい光で捉えた映像にも癒されながら、観終わった後、心の中の引き出しに宝物のように仕舞っておいた思い出と、再会した喜びに浸る。そんな珠玉作。