青春 (2023):映画短評
青春 (2023)ライター3人の平均評価: 4.3
これを観てしまうと、第2部が待ち遠しくて仕方なくなる!
若者たちが各々、ミシンを踏むビート音が強烈だ。それは住み込みの縫製工場の日々の光景、蛍光灯の下での単なる作業の一工程なのだが、何かに怒りをぶつけているようにも思えるし、全然そうではないのかもしれぬ。とにかく、ひとりひとりに内在する“生のリズム”が、観る者を惹きつけてやまぬ猥雑なアンサンブルを奏でているのだ。
賃上げ交渉もあるが、たわいもない喧嘩や、恋愛をめぐるあれやこれやも。彼ら彼女らは、映画のための被写体に収まらず、時に進んで自己を表出させる。きっと、自らカメラを手にした監督ワン・ビンと(その意を汲んだ)複数の撮影者に身を預け、限られた青春という時間の“証人”になってもらっているのだろう。
彼らの”青春”の上に成り立つ暮らしを考える
ファストファッションがもたらす衣料品工場での過酷な労働環境に目を向けたドキュメンタリーはこれまでもあった。それは、実態を表沙汰にすることで私たちにエシカル消費を促す意義あるものに違いないが、一方で私たちに”可哀想な人たち”という印象を植え付ける。だが王兵監督のフラットな目線がそれを覆す。出来高制の職場では競ってミシンを動かし、男女が入り混じって寝食を共にする環境は恋も生まれればいざこざも招く。確かにここには彼らの青春がある。同時に、服の原価や彼らの給与を明確に提示しながらの賃上げ交渉場面をしっかりカメラに捉え、消費社会の皺寄せを晒すことも忘れない。強かに社会を映す王兵、健在なり。
出稼ぎ労働者の若者たちを通して中国の今を見つめる3時間半
30万人以上の出稼ぎ労働者が働くという中国の地方都市の、個人経営の子供服工場が密集する地域を取材したドキュメンタリー。カメラが追いかけるのは10代~20代の若者たちだ。地方の農村地帯からやってきた彼らは、同じ屋根の下の寮生活で寝食も苦楽も共にする。そこはまるで高度経済成長期の貧しかった日本のよう。違うのはみんなスマホを持っていることくらいか。上海みたいな近代都市とは別世界。それでもなお若者たちは恋愛や友情に一喜一憂し、夢も希望も不安も悩みも抱えながら日々を戦い抜く。丁々発止の賃上げ交渉なんか、日本人よりも資本主義と人権を理解していることが伺える。まさに中国社会の今をリアルに伝える青春群像だ。