WALK UP (2022):映画短評
WALK UP (2022)ライター2人の平均評価: 4.5
いつものホン・サンス、でも遊び心は気持ち多め
大都会の片隅に佇む地上4階・地下1階の小さなアパートを舞台に、スランプ気味の有名映画監督と4人の女性たちがワインを片手に、芸術や人生を巡る取り留めのない会話を繰り広げていく。初めて見るはずなんだけど、どこかで見たような気がしなくもない…といういつものホン・サンス映画的マンネリズム。でも、いつもよりちょっと遊び心が旺盛かな。一応ストーリーは全4章に分かれていて、章を重ねるごとに時間がジャンプし、アパートの階数もひとつ上へ上がり、人間関係も大きく変化していく。キツネにつままれたようなラストのオチを含め、なんとも掴みどころのないお話なんだけど、それが妙にチャーミングで心地良いのよね。
ホン・サンス監督は「らせん階段」状に進化/深化を続ける
舞台装置となる4階建てのアパートメントに入ると、ほとんどマジックハウスの如き錯覚度で人生模様の移ろいが凝縮して展開! ひとつの建物という縦の空間設計を存分に活かし、『イントロダクション』の実験を洗練させた大胆な時間経過も素晴らしく、ホン・サンスの旨味がぎゅっと詰まった最高傑作のひとつと断言したくなる。
映画製作の抑圧に悩むビョンスは“マルチバースのホン・サンス”のようだが(その真偽は例によって藪の中)、久々に男性映画監督を主人公に据えたのが興味深い。そこはらせん階段状に、一見回帰したようでも以前とは違う高さの場所。伊のサックス奏者、ファウスト・パペッティのレコードなど小物や細部にも注目!