ナイトサイレン/呪縛 (2022):映画短評
ナイトサイレン/呪縛 (2022)ライター2人の平均評価: 3.5
女性監督ならではの視点があるホラー映画
ホラーというジャンルは社会のあらゆる問題を探索する上で効果的。女優から監督に転身したテレザ・ヌヴォトヴァの野心が感じられる今作でも、たとえば映画のはじめのほうでは女性にとっての妊娠、出産、母性について触れられるし、昔ながらの男性社会における女性の立場、暴力などが描かれていく。それらが“本題”である迷信、魔女狩り、謎解きミステリーに絡んでくるのだが、あちこち飛ぶ感じで、いまひとつまとまりがない。ビジュアルとサウンドで不穏なムードは盛り上げるが、つい思い出してしまう「ザ・ウィッチ」や「ミッドサマー」のようには引き込まれない。ナタリア・ジェルマーニ、エヴァ・モーレスの演技はとても良い。
恐怖と迫害のフォークロア
魔女狩りという漆黒の集団心理の暴走は、人間と社会の暗い本性の核に関わるものとして永遠に続く主題かもしれない。これが長編2作目となる東欧の新鋭監督テレザ・ヌヴォトヴァは最もハードコアな形で「ムラ」の実態と構造を見せる。舞台の時代設定は現代だが、共同体の内実は中世のまま。近代化する前の人間はこういう「獣」だったとでも言う様な。
家父長制/男性優位に支配された中での惨劇を描く内容はフェミニズム色も強い。本質はルーマニア映画『ヨーロッパ新世紀』等ともそう変わらず、社会派に振るか、ジャンル系:ホラー的に振るかの違いだけ。ヴィジュアルもサウンドデザインも、世界像はとことん陰気で異様に染め上げられている。