不思議の国のシドニ (2023):映画短評
不思議の国のシドニ (2023)喪失感が異国で埋まる、豊饒なラブストーリー
邦題や予告編から京阪神版『ロスト・イン・トランスレーション』を想像したが、本作が描くのは国境を越えてロストしたものではなく、ロストを埋めるものだ。
喪失感や虚無感を浮き彫りにした人間ドラマは、愛する者の幽霊を出現させることにより重いものとはならず、軽妙な味わいを醸し出す。ユーモアの範囲に収められたカルチャーギャップの描写も効果的。
セリフより映像で語っている点も魅力だが、とりわけ京都の観光名所の静謐さはキャラクターたちの心象に寄り添うかのようで目を奪われる。『雨月物語』にオマージュを捧げつつ、ラブストーリーを構築するE・ジラール監督の手腕にも唸った。そう、本作は愛の物語でもある。
この短評にはネタバレを含んでいます