メイデン (2022):映画短評
メイデン (2022)
ライター2人の平均評価: 3.5
思春期の孤独や痛みを浮き彫りにする素朴で端正な青春映画
緑豊かな大自然に囲まれた、しかしそれ以外には何もないカナダの片田舎。無二の親友であるスケボー少年コンビが思いがけない悲劇に見舞われ、ひとりの少女が忽然と姿を消してしまう。どこにでもある田舎町の平和で平凡で退屈な日常に起きた2つの事件が浮き彫りにするのは、世界の片隅で自分の居場所を見つけられずにいる、多感な年頃の少年少女が抱えた孤独や痛みや哀しみ。彼らのような子供は、恐らくいつの時代も世界中に存在するはずだ。どこか寓話的で神秘的なストーリーとディテール描写にこだわった映像美が秀逸。『スタンド・バイ・ミー』の頃のリバー・フェニックスを彷彿とさせる新人ジャクソン・スルイターにも要注目だ。
思春期の少年たちの夢想と記憶が混じり合う
映画は、すぐ近くに野原や川がある場所で暮らす10代の少年少女を映し出すが、本人にもその正体が分からない、捉えどころのない鬱屈のような痛みのようなもののせいで、死が、彼らのごく近いところにある。死に容易に呼び寄せられるし、生でも死でもない領域に無意識に足を踏み入れてしまう。画面に写しだされるものが、記憶なのか、これから起きることなのか、判別できない。
真昼の野原のビニールがはためく建築中の家。暮れていく夕方の空。腰まである草の野原。夜の森の虫の声。タイトルは、ある少年が鉄橋や壁にスプレーで何度も描く文字だが、本人にとってその語に意味はなく、ただ描きたいという気持ちが形になっている。