スティーヴン・キングへの目配せも!歪んだ母性愛を描く『RUN/ラン』トリビア集
映画『search/サーチ』のアニーシュ・チャガンティ監督と製作陣が新たに手掛ける映画『RUN/ラン』が6月18日より公開中。劇中に登場する重要なキーワードや、チャガンティ監督が劇中に散りばめた遊び心溢れるトリビアを紹介する(一部、映画のストーリーに触れています)。
毒母の狂気が暴走!サイコスリラー映画『RUN/ラン』予告編【動画】
本作は、生まれながらの病気で車椅子生活を余儀なくされている娘と、彼女に病的な愛情を注ぐ母親の危うい関係を描くサイコスリラー。郊外の一軒家で暮らすクロエ(キーラ・アレン)は地元の大学への進学を望んで自立しようとしていたが、ある日、母親のダイアン(サラ・ポールソン)に不信感を抱き始める。そして、新しい薬と称して差し出す緑色のカプセルが服用してはならない薬であることを知り、隔離から逃げようとするが……。
前作『search/サーチ』でPC画面上に隠された伏線やトリビアに関する考察で盛り上がったのも記憶に新しいが、今作も例外ではない。ありとあらゆるところに監督の遊び心あふれるトリビアが隠されている。
クロエが進学を希望しているワシントン大学は、ワシントン州シアトルに実在する名門の州立大学。映画の序盤にはクロエが大学の公式サイトを閲覧しており、そこにある「引っ越しに関するヒント」のコーナーに掲載されている写真の女性は『search/サーチ』で「fish_n_chips」というハンドルネームの女性を演じていた女優である。
クロエが母親に飲まされている薬を調べるため電話番号案内「411」に電話をすると「お調べする州名と都市名を言ってください。例えば『メイン州デリー』のように」と自動音声が流れる。これは作家スティーヴン・キングが創造した架空の田舎町。彼の小説「IT」などの舞台になった。ちなみにクロエがランダムに電話をかけて薬の詳細を調べてもらう男性をトニー・レヴォロリが演じている。
また、クロエとダイアンが訪れた映画館で上映されている劇中映画は『Breakout』というタイトル。その意味は「脱出」だが、クロエのその後の運命を予感させる。『Breakout』のポスターには『search/サーチ』の主演俳優ジョン・チョーが協力している。
続いて映画館を抜け出したクロエが薬局に駆け込み、応対する薬剤師の名前は「ミセス・ベイツ」。のちにダイアンが電話をかけるシーンで女性のファーストネームは「キャシー」であることが判明。キャシー・ベイツはキング原作の映画『ミザリー』でアカデミー賞主演女優賞を受賞。これもキング作品へのささやかなオマージュといえるだろう。
ダイアンが自宅でシャワーを浴びるシーンでは、彼女の背中に惨たらしい傷痕があることが判明。劇中では削除されたが、ダイアンは幼少期に母親から虐待を受けていた過去を持つことが描かれ、監督はダイアンの幼少時代や、母と祖母の人生まで遡ったバックストーリーを書き記してサラと共有していた。キャラクターづくりに重要な役割を果たしていたという裏話も。
さらに、ダイアンの言動は代理ミュンヒハウゼン症候群の傾向がある。これは子どもへの虐待の一種で、親が自らの欲求を満たすため、子どもにわざと病気や障害を作り、その面倒をみることによって周囲の注目や同情を集めようとする精神疾患のこと。加害者には母親が多くみられ、2019年のTVシリーズ「見せかけの日々」は2015年にミズーリ州で実際に起こったディーディー・ブランチャード殺害事件を題材にしており、代理ミュンヒハウゼン症候群を扱った内容が大きな反響を呼んだ。(編集部・大内啓輔)