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昨年、公開されたスタジオジブリの長編アニメ『ゲド戦記』。原作は、アメリカの女優作家アーシュラ・K・ル=グウィンの同名小説で、「指輪物語」「ナルニア国物語」と並ぶ世界三大ファンタジーとして世界中で愛されている。原作は全6巻。映画ではその一部しか語られず、その全ぼうを知るには、原作に触れるしかない。アースシーと呼ばれる世界を舞台に繰り広げられる魔法と冒険、そして、愛。その裏に隠された知られざるメッセージに迫る! |
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かつてゲドと冒険の旅に出たテナーは、ゴント島の農園でテルーという名の少女を養女として迎え入れる。テルーは、父親らに虐待され、顔に大きなやけどを負っていた。ある日、西の空から、カレシンという名の竜が飛んできた。その背中には、クモとの死闘で動けなくなったゲドの姿があった。テナーの手厚い介抱のおかげで回復したゲドは、ロークには戻らず、ゴント島でテナーらと暮らすことに。テナーに反感を抱いている魔法使いのアスペンらが、3人の平穏な生活を乱そうとしたとき、空から再び、カレシンが現れる。そして、カレシンと少女テルーの知られざる関係が明らかになるのだった。 |
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1990年に発表された第4巻。前作をもって三部作として完結したと思われていただけに、18年ぶりの新作は、ファンに驚きと喜びをもたらした。しかし、ここに、かつての偉大な魔法使いゲドの姿はない。クモとの死闘によって魔法の力を失った彼は、今や、1人の人間として生きる初老の男性なのだ。一方、物語は、かつてゲドと旅したテナーと、彼女の養女テルーにスポットを当てることで、アースシーの世界における女性の地位や役割を描いている。何気にウジウジ悩みを抱える男たちに比べ、地に足をつけ力強く生きる女性たちは、とてもたくましい。人間本来のあるべき姿を訴える、大人な内容である。 |
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第4巻「帰還」は、映画『ゲド戦記』の重要なキャラクターである、顔にやけどを負った悲劇の少女テルー、そして、中年女性になったテナーが登場する作品だ。原作に描かれるゲドとテナーの強い信頼関係や、終盤に明かされるテルーの正体も、映画のベースになっている。また、映画には、魔法を使わずに農作業や家事をこなすゲドの姿が登場するが、これは、魔法を失った原作のゲドに影響されたと思われる。 |
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毎夜、夢の中で亡き妻から「死の世界の石垣を取り払い、わたしを助けて欲しい」と訴えられ続けた修理屋で、まじない師のハンノキは、その悪夢に思い悩み、大賢人ゲドに助言を求める。クモを倒したことで、バランスを取り戻したはずの死の世界で、何が起こっているのか? 気がかりになったゲドは、ハンノキにレバンネン王(かつてのアレン)らに会うように進言する。一方、西の海では竜が暴れるようになり、その被害が拡大していた。レバンネンたちは、ローク島にある、まぼろしの森を訪れ、そこで竜が暴れ出した原因と、ハンノキの夢に現れる死の世界に関係があると知る。 |
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前作から、さらに11年を経て、2001年に発表された最後の作品。ハンノキの夢をきっかけに、レバンネン、テルー、テナーらが、アースシーの世界を探険し、過去に埋もれた人間と竜の「共存と裏切りの歴史」を掘り起こす。これまで、誰かしらが“主人公”になっていたが、この作品では、世界観そのものに焦点を当てた結果、アースシーという物語の舞台そのものが主役になっている。魔法が司る世界で繰り広げられる冒険を通して、人間のあるべき姿と生きる道を問いかけ続けた「ゲド戦記」シリーズの最終章は、“風”のタイトルが示すように、静かな余韻が漂う大団円を迎える。 |
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「我々は自由と火と風を選び、人間は、くさびと水と大地を選んだ。我々は西を選び、人間は東を選んだ」 竜の長老カレシンがこう語るように、かつて、竜と人間は同じ種族であった。このアースシーの世界観が、映画『ゲド戦記』の根底にあるのは間違いないだろう。だからこそ、テルーが竜に変身するといった現象も起こりえるのだ。第5巻に登場するアイリアンが、映画版のテルーのキャラクター設定に影響を与えている点にも注目したい。 |
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ウェイ島に住んでいる少女トンボは、村のまじない師から“アイリアン”という真(まこと)の名を授かった。そのうわさを聞きつけた若い魔法使い見習いのゾウゲは、トンボにローク魔法学院に行くようそそのかすと、一緒にロークへと旅立った。しかし、その本当の目的は、かつて自分を破門した学院に対して復しゅうすることであった。そんな彼を許して、学院の門をくぐろうとしたトンボだが、“女人禁制”を理由に入学を断られてしまう。やがて、学院内の権力抗争に巻き込まれたトンボは、魔法使いトリオンと対決することに。そこで、トンボの正体が明らかになるのだった。(「トンボ」より) |
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第5巻「アースシーの風」の重要なキャラクター、アイリアンの前日談を描いた「トンボ」をはじめ、「カワウソ」「ダークローズとダイヤモンド」「地の骨」「湿原で」という5つの中短編から構成された外伝。アースシーの暗黒時代や、ローク魔法学院が創設されたいきさつ、ゲドの師匠オジオンの若き日々など、物語の背景と古い歴史を知ることができる。アイリアンに関する記述がある点からも、第5巻を読む前に手に取って欲しい作品である。同じファンタジー大作「指輪物語」(トールキン著)にも、「追補編」と題された外伝が存在するのは有名。 |
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「湿原で」に描かれる魔法使いの成長や贖罪(しょくざい)は、「ゲド戦記」の大きなテーマ。もちろん、映画版にもそれらは強く反映されており、さまざまな過去や傷を背負った魔法使いが登場するので、彼らの人物背景に思いをはせるのも楽しみ方の一つだろう。また、外伝に収められた中短編は、どれも情景描写が美しい。そんなアースシーの世界が、目に見える形で味わえるのは、やはり、映画ならではの醍醐味。見ているだけで、癒されてしまう。 |
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