サードシーズン2011年9月
私的映画宣言
インタビュー仕事は相手ありきなので、毎回、葛藤の連続。なかなか100パーセント満足が得られない中、久々に普段とは逆の「取材を受ける」体験。時間の配分とか、失礼な質問とか一切気にせず、聞かれたことに素直に反応すればよくて、あー、何てラク!
●9月公開の私的オススメは、『僕たちは世界を変えることができない。 But, we wanna build a school in Cambodia.』(9月23日公開)。
やりたいことはやれるうち……と、ボクシングを始めて10か月目に突入。週1回なので、なかなか痩せないが、スタミナがついて、近ごろハイテンション気味です。
●9月公開の私的オススメは、まるっきりテイストは違うが、『監督失格』(9月3日公開)と『ミケランジェロの暗号』(9月10日公開)。
地図を眺めることにハマり、「明治通り」などの名称を覚えるだけでなく、呼称が変わる通りの起点と終点まで確かめ、免許もないくせに何をやっているのか。ただ、また帰宅困難者になっても最短距離で帰れる自信アリ!
●9月公開の私的オススメは、『アジョシ』(9月17日公開)。
6月のトニー賞授賞式後のブロードウェイは大賑わいで、暗くメッセージ性の強い作品が多かった去年に比べると今年は明るく楽しい作品が多かったなあ、景気も上向き? と楽観ムード。が、7月~8月の米経済の混乱ぶりにリーマンショックは終わっていなかったことを改めて実感した。
●9月公開の私的オススメは、『カンパニー・メン』(9月23日公開)。
探偵はBARにいる
『アフタースクール』の大泉洋と『悪夢探偵』シリーズの松田龍平が演じる探偵が、札幌を舞台に危険に巻き込まれるスリリングな犯罪ミステリー。東直己の小説「バーにかかってきた電話」を基に、テレビドラマ「相棒」シリーズの橋本一がメガホンを取る。さらには、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの小雪や『釣りバカ日誌』シリーズの西田敏行が共演。大泉と松田コンビの独特の存在感に引き込まれる。
[出演] 大泉洋、松田龍平
[監督] 橋本一
キャストの面々を眺め、何となく事件のオチを予想したら、その通りになった……というわけで、サスペンスとしてはそれほど盛り上がらない。大泉洋も頑張っているけど、彼らしい三枚目の味がちらついて、クールなキャラとの溝が埋まらなかった気がする。じゃあつまらなかったかというと、観ている間、独特のムードに浸れて楽しめたから不思議。『用心棒』のパロディーなどマニアなネタも織り込みつつ、BARでうまい酒を飲んでいる時間のような、心地よい時間が流れていくのであった。
大泉洋と松田龍平の肩の力の抜けたコンビネーションはとてもいいし、本筋とは関係ない2人のくだらない会話がスパイスになっている。特に松田のぐうたら感がリアルで、かっこいい役にこだわらない俳優っぷりに好感を持った。謎の女に翻弄(ほんろう)される場末の探偵とその相棒の物語は悪くはないが、すべての鍵を握る小雪の演技が……。謎の女の素性がすぐにわかっちゃうって問題アリでは? ちょっと意地悪そうな表情などはキャラクターにハマるはずなのに、なぜか違和感があるんだよね。表と裏を丹念に演じ分けられる力量を持った女優はほかにいるんじゃないのかな? 写真だけ登場の吉高由里子ちゃんとかぜいたくな作りなんで、龍平くんが活躍するスピンオフもありかも。
『相棒』シリーズの監督&脚本家が手掛けた探偵もの。そこかしこに、『傷だらけの天使』や『探偵物語』をほうふつさせるオフビートっぽさが漂う。ただ、大泉洋がピンになると、地元・北海道で主演という気負いがあるのか、力み過ぎ。そんなに二枚目ぶられても……、観ているこっちが戸惑うよ。その分、脱力演技の松田龍平は間の取り方といい、役どころを心得て安心。もっとも大泉と松田の相性はいいし、松重豊に安藤玉恵などクセある脇キャラもよしってところで、もうちょい、話もよーくこねて、連ドラでどうでしょう。
依頼はバーの電話で受ける、毎朝同じ喫茶店で同じ朝食をとる、デコボコな相性の相棒がいる、小さな街に根差して活動中など、探偵が主人公の様式美がバッチリ整備されていて安心して集中できる上に、テンポが緩やかなので複雑に絡み合う事件を大泉洋演じる探偵と同じ速度で理解できる点が好印象! それにしてもヤクザ役の高嶋政伸の怪演がズバ抜けていて、『スマグラー おまえの未来を運べ』の兄・高嶋政宏もイッちゃっていたけど、高嶋ブラザーズの転身ぶりに感心。いつか『007/ダイヤモンドは永遠に』みたいな仲良し殺し屋役を兄弟で演じてもらいたい。
世界侵略:ロサンゼルス決戦
ロサンゼルスを舞台に、地球を侵略してきたエイリアンに立ち向かう海兵隊員の死闘を描いたSFアクション。ドキュメンタリー調の戦争映画のスタイルに未確認飛行物体の実録映像などを盛り込み、壮絶な地上戦が展開する。監督は、『テキサス・チェーンソー ビギニング』のジョナサン・リーベスマン。主人公の海兵隊隊長には、『ダークナイト』のアーロン・エッカート。共演には『アバター』のミシェル・ロドリゲス、『アイ,ロボット』のブリジット・モイナハンら実力派が顔をそろえる。
[出演] アーロン・エッカート、ブリジット・モイナハン
[監督] ジョナサン・リーベスマン
観ているこちらを戦いの場に投げ出し、気味悪いエイリアンの実体にがく然とさせる。作品としての明確な意図を、強引な力技で見せきったところが好感。敵エイリアンが背格好も、戦闘能力も、人間の兵士とほぼ同じレベルなので、倒すか倒されるかという予想不能の状況に、いやが応でもアドレナリンは上がるってもの! というわけでアクション場面はスーパー級の仕上がり。その分、冒頭の軍の描写や、逃走休憩中の人間ドラマがやや退屈なんだよね。徹底して対決とサバイバルを描いてくれたら満点だった。
飛来した瞬間、ロサンゼルスの海岸で人類殺りくを始めたエイリアンを向こうに回した引退前日のベテラン海兵隊員と新チーム、子どもを含む民間人集団の戦いというシンプルなストーリーに軍隊的ロマンチシズムや親子愛、自己犠牲、贖罪(しょくざい)といったさまざまなテーマが盛り込まれている。そういう意味では『トランスフォーマー』シリーズに似ているかもしれないが、本作のメインはエイリアンとのバトル。ハンディーカメラ撮影と豪華な特撮で緊迫感と戦闘の残酷さを「これでもか!」てな具合に演出してくれる。とはいえ、そこに反戦的な意味合いが感じられるかというと逆。普通のアメリカ人が一致団結して戦えば絶対に勝利する、という国威発揚感があふれ出してるんだな。単純なアクションとしてはすごく面白いが、裏読みするなかれってことでしょうか。
いやー、聞いちゃいたけど、すんごい戦争映画。エイリアンからの問答無用の攻撃には、自分が撃たれている気になり、思わず「痛っ!」と身を縮める始末。3Dでもないのに、臨場感はダントツ。まあ、海兵隊万歳、アメリカ万歳の映画であるけど、ボロボロになったロサンゼルスを死守しようとする軍曹アーロン・エッカートの男っぷりの良さ。若い上司を立てつつ、黙って仕事をする。ドラマの展開は王道だけど、危機的状況にはこんなリーダーがほしいよなと思いつつ、でも、疲れ知らずじゃあ、部下はつらいよなとも思ったけど……。
世界各国のUFO目撃事件は異星人が虎視眈々(こしたんたん)と地球侵略を狙っていたからで、満を持してロサンゼルスで総攻撃を開始するというSFアクション。エイリアンの細かい動機はともかく、アメリカ海兵隊との攻防戦がすさまじく、シカゴを壊滅させた『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』に勝るとも劣らない大迫力のアクション映像にかなりアガる! アーロン・エッカート、ロドリゲス姉御(ミシェル・ロドリゲス)らキャストの熱演! 「オレがやらねば誰がやる!」という『海猿』的マインド! 日本人にもウケる内容ではあることは間違いない。何よりもハイセンスなタイトル! 決戦はロサンゼルス! これに心奪われた。
最初から最後まで一本調子、緩急のない演出が非常に退屈な作品。戦闘シーンが延々と続くのは、このところはやりのモキュメンタリー(ドキュメンタリー風表現手法)を狙ったのかもしれないが、さしてリアルにもスリリングにも感じられず。一方、合間に人間ドラマらしきものもないではないが、あまりにも薄っぺらくて違う意味で泣ける。アーロン・エッカートは、いつも良い仕事をしているので作品選びには気を付けてほしいものだ。
スリーデイズ
無実の罪で投獄された妻を救うため決死の行動に出た男の姿を描く『すべて彼女のために』を、『クラッシュ』『告発のとき』のポール・ハギス監督がリメイクしたサスペンス・アクション。愛する妻と幸せだった家族を取り戻すため、命懸けの脱獄計画に挑む主人公を、ラッセル・クロウが熱演する。『ブッシュ』のエリザベス・バンクス、『96時間』のリーアム・ニーソンが共演。限られた時間の中で、警察の追及をかわしながら展開する逃走劇の行方から目が離せない。
[出演] ラッセル・クロウ、エリザベス・バンクス
[監督] ポール・ハギス
脱獄の裏テク&裏事情の数々は見応えアリ。妻を自由にしようとする男の執念にも圧倒される。でもその執念の源が、主人公の勝手な思い込みに見えてしまうのが残念。妄信→過剰行動の「いっちゃってる」男ならまだしも、ラッセル・クロウがマトモな迫真演技を見せるもんだから、違和感は拡大するばかり。ミスキャストという印象も与えてしまうのでは? 演出意図には反するけど、主人公と同じように妻の無実を固~く信じきって観ましょう。そうすればある程度は感動できるかも。
オリジナル版は美女と野獣っぽい夫婦で、ダイアン・クルーガー演じるヒロインのか弱さがあるので観客が「えん罪」を疑わない設定。だがアメリカ版でヒロインを演じるエリザベス・バンクスが醸し出す雰囲気は真逆で、ストーリーがわかっているのに「あんたが殺したんじゃないの?」と勘繰っちゃいます。しかも、この女、夫が必死こいてる最中にとんでもないことをしようとしちゃうの(ネタバレしたくないのであいまいな表現でごめんなさい)。どういうつもりって問いつめたくなりましたよ。夫の熱烈な愛情を理解できない妻を救う価値があるのか? 壮大なラブストーリーに陰りはいらない! ラッセル・クロウ演じる主人公が車の鍵の開け方とか鍵の作り方をネットで調べて実行するのだが、ハウツー面や細部を丁寧に描いた演出が面白かったな。
愛する妻のためならば、たとえ火の中、水の中という熱い男にラッセル・クロウはハマっている。でもそれなら、とことん真相追究しないか? と素朴な疑問。ポール・ハギスも名脚本家だけにあれこれいじりたいのはわかるが、冒頭とラストに加えた部分は必要か? 特にラストは、今さら、それはないですから……とツッコミたくなる。ラッセルの父役ブライアン・デネヒーは◎。ま、何だかんだいっても、脱獄から家族そろっての逃避行はスリリングで引き込むけど、リメイクの必要があったの? と、最近の「モールス」同様の印象。
まず1970年代的な宣材のデザインセンスに発奮! えん罪で収監中の妻を脱獄させるため、ラッセル・クロウ演じるしがない中年が奇想天外な策を練り、実行に移すわけだが、しでかしてくれそうなオーラをなかなか出さず、死に物狂いで頑張っている夫を体現するクロウの演技力が光るねえ。そうそう、世間に伝わってなさそうでキケンだなと思ったことは、リーアム・ニーソンとかエリザベス・バンクスとか、地味だがキャストが豪華ですよ。
このリメイク版もよくできていているが、オリジナルのフランス映画『すべて彼女のために』に比べると点数が渋めになってしまう。オリジナルではヴァンサン・ランドンの追い詰められた男のしょぼくれ感に説得力があり、ダイアン・クルーガーの薄幸さがいかにも救いの手を差し伸べたくなるのに対し、本作は全般的に切迫した空気が薄く、何よりエリザベス・バンクスの大味さが気になった。ラッセル・クロウはいつも通りの好演だったと思う。