サードシーズン2012年9月
私的映画宣言
「PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット」10話分を一気見。ジム・カヴィーゼルの暗い雰囲気がキャラにハマってる。それにしても発案者ジョナサン・ノーランってすごい才能だと感動!
●9月公開の私的オススメは、最強の美女に殴られたい男子続出かもな『エージェント・マロリー』(9月28日公開)。
今は6月に生まれた息子を中心に生活が回っています。子育ては体力勝負だなあと痛感する毎日。ライター業も結構体力勝負ですが……(笑)。
●9月公開の私的オススメは『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』(9月7日公開)。パンフレットに作品評を寄稿していますのでぜひ!
少年時代に映画館でトラウマ作品となり、現在まで偏愛が続く『キャリー』。リメイク版の現場取材という、うれしすぎる機会が! 血を浴びるクロエ・グレース・モレッツを間近で見て、感動のあまり全身の震えは止まらず……。
●9月公開の私的オススメは、迷った末に前半がメチャクチャ面白い『ハンガー・ゲーム』(9月28日公開)に。
「ホワイトカラー」の取材でニューヨークに。マット・ボマーの美形ぶりは相変わらずだったが、相手役のティム・ディケイが前回より体が締まってイカすオヤジ度を増していた。シーズン4も楽しみ!
●9月の私的オススメは『デンジャラス・ラン』(9月7日公開)のラストのデンゼル・ワシントンと『莫逆家族 バクギャクファミーリア』(9月8日公開)の井浦新の表情に切なくなったー。
ボーン・レガシー
暗殺者ジェイソン・ボーンと彼をめぐる陰謀を、壮大なスケールで描いた『ボーン』シリーズの裏で進行していたストーリーを描くアクション大作。前3作と同じ世界と時系列を舞台に、ジェイソン・ボーンとは別の暗殺者ケネス・キットソンが繰り広げる戦いを活写する。『ハート・ロッカー』のジェレミー・レナーが暗殺者ケネスにふんし、体を張った見せ場を次々と披露。また、『インクレディブル・ハルク』のエドワード・ノートン、『ナイロビの蜂』のレイチェル・ワイズなどの実力派が共演してドラマを盛り上げる。
[出演] ジェレミー・レナー、エドワード・ノートン
[監督] トニー・ギルロイ
続編ではなく、ジェイソン・ボーンの物語と並行して起きていたCIAの陰謀を描くという設定はとても興味深い。前シリーズの映像を借用しつつ、さらなる巨悪に近づいていく展開は、シリーズ3作の脚本を手掛けたトニー・ギルロイ監督ならでは。シリーズ主演を引き継いだジェレミー・レナーは華やかさにはやや欠けるが、アクション演技を熱演。オオカミと格闘したり、壁を駆け上ったりと大奮闘。新シリーズ導入部なので消化不良感が残るのは仕方ないが、本家ボーンとのマッシュアップに夢をつなぎたい。
監督が「ジェイソン・ボーン」シリーズの脚本家であるトニー・ギルロイに交替したのが、観賞前のすっごい心配要因だった。彼の以前の監督作『フィクサー』や『デュプリシティ ~スパイは、スパイに嘘をつく~』がやたら地味な印象だったから。しかしフタを開けてみると、えらくハジけていてびっくり! 特に後半は潔いほどアクションの快楽に徹しており、マニラでの狭い路地を生かした空間演出は往年のジャッキー・チェン映画みたい。半分「007」に寄ったようなベタさ加減も楽しかった。「理系ボンド・ガール」的なキャラのレイチェル・ワイズは、私生活ではダニエル・クレイグのヨメだしね!
シリーズの新たな展開なので、前3作を未見でも素直に楽しめる……と言いたいところだが、マット・デイモン版との微妙なリンクが本作のツボでもあり、初心者は軽くでも予習して観た方が良さそう。アクション演出は、シリーズ恒例の、めまぐるしいカット割りで臨場感満点に畳み込んでくるが、さすがにポール・グリーングラス監督の前2作の域には達してないので、やや見づらいシーンも。とはいえ、無骨なジェレミー・レナー&やけに美しく撮られたレイチェル・ワイズの2ショットに、最後までほれぼれ。
ついこの間まで悪役専門だったからか、ジェレミー・レナーにマット・デイモンのような人の良さを感じず。そのせいか、彼が命を狙われるこの役に感情移入ができない。ただレイチェル・ワイズと手に手を取っての逃避行を始めた途端、食い入った。よく見りゃレナーは、ワイズの現夫ダニエル・クレイグと似たようなスネた顔。絶対に彼女はダンナを頭に描いて演じたはずだと妄想すると楽しくて、「ボーン」シリーズの焼き直しのようなアクションシーンも新鮮に見える……かな。
ジェイソン・ボーン=マット・デイモン抜きでシリーズを続けるとなった場合、これ以上のものを作れといっても難しい話だとは思う。スタッフもキャストも制限の多い中で最善を尽くしたと思うも、この次から次と新たな陰謀が……といった場当たり的な展開には今回もこの先も興味が持てない。そもそも新たな「ボーン」シリーズなんて作る必要あるの? と思うのは筆者だけではないだろうが、それを言っちゃあおしまいってことで。
夢売るふたり
女性が心の奥にひた隠し、墓場まで持っていく醜い側面を女性監督が暴くといった図式の映画。なのだが、寂しい女を見抜いては夫をあてがい、金をひっぱるヒロイン里子の動機は実は金ではなく、懐の余裕のある女性への嫉妬という点には違和感がある。己の欲望を満足させるために愛する夫をも犠牲にする女の恐ろしさを描いたはずが、まわりくどすぎる。法廷で名器自慢してしまう木嶋佳苗の方がよほど恐ろしいよ。人間の多面性を暴こうとする主題を使って禁忌を犯そうとしながらも、一線を踏み越えられない西川監督のモラリストぶりが逆に際立つ結果になって残念。策を弄(ろう)し過ぎかな。
おそらく西川美和監督は、女性映画を作るぞ! という意気込みのもと、今回は自分のハードルをすごく上げたのだろう。その作家的挑戦はとてもかっこいい。だが競技結果としては、微妙に飛び切れていない気もする。多分この映画は、結婚詐欺にだまされる側の「ダメ女群像」をメインに押し出した方が、もっとスッキリしたものになったと思う。恋愛の予感を得たあとの、メガネOL(田中麗奈)の帰り道のこらえきれない笑みなど、生々しい描写が頻出するから。その分、ヒロインの里子(松たか子)がいかにも観念の産物に見えてしまう。しかし夫役の阿部サダヲは、驚がくの火だるまスタントも含めて文句なしの快演!
観ている間、面白くて、全く飽きない。テンポもいい。でも「しこり」のような違和感があったのは、だまされる女たちの数の多さ。映画だから極端に描いていいんだけど、カウンターにずらーっと彼女たちが並ぶ図とか、そこまで誇張する必要が? だまされる理由も作品のポイントだと思うので、しこりは最後まで消えなかった。圧巻は、松たか子。ラストの彼女は、同じ西川監督の『ゆれる』での香川照之と双璧を成す、空前絶後の表情を見せる。ここを観るだけでも、本作の価値はアリと言っていいほど!
火事で店を焼失し、ボロボロになった夫を何とか支えようという良妻が、夫の浮気を知り、夫婦の力関係が逆転。それとともに二人の関係が恋愛ではなくなるときの悲哀をじっくりと描いた西川監督の脚本はうまい。阿部と松の相性の良さも、愛は冷めているのに離れない夫婦の不可思議さを体現して見せるのにプラス。特に松の体当たりの演技、そこに垣間見える妻&女としての悲哀には心が痛む。ただクライマックスシーンは唐突すぎだし、それはないんじゃあ……とツッコミを入れたくなる。
男女の間には、たとえ何年連れ添った仲むつまじい夫婦といえども深くて暗くて埋め難い溝があるという話には枚挙にいとまがない。本作は結婚詐欺という行為を通して、夫はずるく見えるし妻はおっかなく見えるけど、どちらも全否定できない人間の曖昧さ、複雑さ、本能的なずるさ、愚かさや愛憎の強さを移ろいゆく感情の変遷と共に映し出していて見事。一方で、だまされる女性の側に寄って映画を観る人もいるだろう。解釈は人それぞれ。いろんな人の感想を聞いてみたい。
鍵泥棒のメソッド
『アフタースクール』の内田けんじが監督を担当した、さまざまな要素が詰め込まれた予測不能の娯楽作。ひょんなことから人生が逆転してしまった2人の男性を巻き込んだ物語の成り行きを、笑いとサスペンスを交えて描き切る。情けない主人公を演じるのは『ジェネラル・ルージュの凱旋』の堺雅人。そして『劔岳 点の記』などの香川照之が、記憶をなくす前と後でまったくの別人に変身する男を怪演する。彼らが真剣勝負で挑む人生を懸けた戦いに胸が躍る。
[出演] 堺雅人、香川照之
[監督] 内田けんじ
デビュー以来、練りに練られた脚本の妙味とストーリーテリングのさえを見せてくれる内田けんじ監督。わたしの中では10割打者! 本作も期待にたがわぬ出来映えで、「あり得なさそう」な物語がテンポよく進行していく。売れない役者、謎の殺し屋、婚活中の編集者を絡ませる発想はもとより、人間心理をきちんと踏まえた展開部分、さりげなく忍び寄るユーモア、ストンとふに落ちる決着とほとんどパーフェクト。役者陣が誰も悪目立ちせず、見事なアンサンブル演技となっているのも演出のなせる技。素晴らしい!
前作『アフタースクール』でトリッキーな作劇を極限まで推し進めた内田けんじ監督。今回はそのコントロールフリークぶりを若干緩めて、適度に隙のあるカジュアルな佳作に仕上げた。いわばオールドハリウッド風のロマンチックミステリーを、現代日本の不器用な男女論に合わせて変換した感じ。記憶喪失というモチーフは「何でもあり」になりがちだから危ういが、うまくバランスを取って渡り切り、キャラクターの人格を象徴する部屋のディテールなども効いている。確実に一定のレベル以上楽しませてくれる信頼の内田ブランドは、そろそろ「ポスト三谷幸喜」の一番手と呼ばれても良い頃では?
銭湯で身分が入れ替わるオープニングから、いきなり鮮やか! 広末涼子のヒロインによる「相手もいないのに結婚宣言」など、いくつかとっぴな状況があるけれど、それらは本筋での決定的要素じゃないし、基本はコメディーだから軽い気持ちで受け入れられる。売れない役者で演技力が試される堺雅人と、記憶をなくして、さえない人になっちゃう香川照之という、好対照な「巻き込まれ」名演技と、ピンチを切り抜ける彼らの絶妙な行動が、物語上できっちり機能しており、日本映画でこんなに笑ったのは久しぶり!