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恐るべき隠ぺいの数々に迫る!ドキュメンタリー映画のススメ

今週のクローズアップ

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今週のクローズアップ 恐るべき隠ぺいの数々に迫る!ドキュメンタリー映画のススメ

 「映画」といってまず想像するのは、劇映画だろう。しかし、世界初の実写映画といわれる『工場の出口』(1895)は、そのタイトルの通り、工場の出口を映した46秒のドキュメンタリー映画であったし、(映像が映ること自体に驚きがあったので、わざわざ物語を付ける必要も発想もなかったわけだが、)今でも毎年多数のドキュメンタリー映画が世界各国で製作され公開され続けている。今回は、中でも政府や企業による恐るべき隠ぺいの数々に迫り高評価を得た昨今のドキュメンタリー映画に着目。映画が迫った衝撃の真実を紹介するとともに、ドキュメンタリー映画の魅力を伝えたい。

Case 1:金融危機を引き起こした恐るべき隠ぺい
 

『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』(2010)

製作国:アメリカ
監督・製作・脚本:チャールズ・ファーガソン
ナレーション:マット・デイモン

チェック:第83回アカデミー賞でドキュメンタリー長編賞を受賞した、2008年に起きた世界的経済危機の裏側に迫るドキュメンタリー。20兆ドルもの大金が消え、世界レベルの経済大暴落を引き起こした原因を金融業界関係者や政治家、ジャーナリストらへの取材を基に検証していく。…≪続きを読む。

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価格:1,480円(税込み)
販売元: ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

 「1980年代から米国の金融部門は、何度も金融危機を起こしてきた」。1980年代末まで相次いだS&L(貯蓄貸付組合=個人の預金を集め、住宅ローンを提供するアメリカの金融機関)の経営破たん、2001年に起こったITバブル崩壊、そして2008年、サブプライムローン問題、リーマン・ブラザーズの経営破たん(リーマンショック)に端を発し巻き起こった世界規模の金融危機。『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』は、これらの金融危機を引き起こした政府ぐるみの金融政策にメスを入れた作品だ。

 政治家、大学教授、ジャーナリスト、金融業界を代表するインサイダーに容赦ない質問をぶつけたインタビューで構成された本作は、上記に挙げた金融危機が起こった経緯を、順を追い、わかりやすく解説していく。そうして明らかにされていくのは、アメリカ政府と金融業界の癒着、その癒着により真実が隠ぺいされ推し進められた非道な政策の数々だ。天下り、天上がりなど、政治家、金融業界の重鎮たちが私腹を肥やすために金融危機が起こり、税金が無駄に投入され、自国だけでなく全世界の一般市民が窮地に追い込まれていった真実。本作ではアメリカ金融業界のシステムに驚き、辟易(へきえき)させられることだろう。

Case 2:食の安全を脅かした恐るべき隠ぺい
 

『モンサントの不自然な食べもの』(2008)

製作国:フランス、カナダ、ドイツ
監督:マリー=モニク・ロバン

チェック:遺伝子組み換え作物(GMO)で世界シェアのほとんどを占めるアメリカのアグロバイオ企業「モンサント社」の実態を追うドキュメンタリー。GMO以外にも「カネミ油症事件」で知られるPCB、枯葉剤、牛成長ホルモンなどを開発してきた同社によってもたらされた人体や環境、小規模農家への深刻な影響を映し出す。…≪続きを読む。

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 「モンサント」は、1901年ミズーリ州で誕生した多国籍企業の名。ベトナム戦争で使用され多くの奇形児を生んだ枯葉剤、日本でもカネミ油症事件(カネミ倉庫株式会社で作られた食用油に、製造過程で使用されていたPCBが混入し発生した公害事件)を引き起こしたポリ塩化ビフェニル(PCB=熱に強い特性を持ち、電気機器の絶縁油として利用された化学物質)などを製造、販売してきた。モンサント社が利益のために工場の近隣住民に健康被害を隠し製造、販売を続けたPCBは、米国でも深刻な公害問題を引き起こしている。『モンサントの不自然な食べもの』は、そんなモンサント社が現在、食品業を牛耳っているという恐ろしい実態に迫った作品だ。

 牛の生殖機能への影響を知りながら牛成長ホルモン剤(「ポジラック」の名で販売)を製造、販売した黒歴史も持つモンサント社は現在、「ラウンドアップ」という名の除草剤と共に販売された、「ラウンドアップ」への耐性を持つ(「ラウンドアップ」を使用しても枯れない)遺伝子組み換え食品の種で、世界シェア90%を誇っている。本作では、「ラウンドアップ」も遺伝子組み換え食品も健康問題が取り沙汰されながら、市場に出回っていった背景について、モンサント社とアメリカ政府の癒着を指摘。「回転ドア」と揶揄(やゆ)される天下り、天上がりのシステムは、『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』に描かれる金融業界と同じで、アメリカのバイオ産業発展のために人間の健康が二の次にされた実態を浮き彫りにしていく。

Case 3:ここにも隠ぺいはあるのか?原発問題に迫る

『チェルノブイリ・ハート』(2003)

製作国:アメリカ
監督・製作:メアリーアン・デレオ

チェック:チェルノブイリ原発事故から16年後の2002年、“ホット・ゾーン”と呼ばれる高濃度汚染地域の現実に迫り、第76回アカデミー賞ドキュメンタリー短編賞を受賞した話題作。ベラルーシのホット・ゾーンに住み続ける住民たちの姿をとらえ、16年たっても続く被爆被害の事実を追う。…≪続きを読む。

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価格:3,990円(税込み)
発売元:ドラゴンハート
販売元:角川書店

 「チェルノブイリ・ハート」とは、1986年4月26日(現地時間)に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故後誕生した子どもに多数見られるようになった先天性の心室中隔欠損症、または心房中隔欠損症に侵された心臓のことをいうのだという。そのタイトルが付けられた映画『チェルノブイリ・ハート』は、事故から16年後、2002年のベラルーシ共和国で、「チェルノブイリ・ハート」のほか、さまざまな健康被害に悩まされる子どもたちを追い、原発事故後の“現在”を追った作品だ。

 本作は、『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』『モンサントの不自然な食べもの』のように、隠ぺいされた真実を暴いていく作品ではない。本作で浮き彫りにされていくのは、原発事故で拡散された放射性物質により健康異常児が明確に増加している実態と、一方で、個々の症状については「放射性物質が原因である」とは言い切ることができない実態だ。しかし、1986年に避難命令の出た立ち入り禁止区域にいまだ生活している人々が取材班に「放射線量を伝えられていないので本当のことを教えてくれ」と尋ねるセリフは、「見えない」ことへの恐怖感をあぶり出し、福島第一原子力発電所事故後の日本に暮らすわたしたちにとって無視することができない問題提起作となっている。

Case 4:遺伝子組み換え食品と原発の共通点をあぶり出す

『世界が食べられなくなる日』(2012)

製作国:フランス
監督:ジャン=ポール・ジョー

チェック:『未来の食卓』『セヴァンの地球のなおし方』のジャン=ポール・ジョー監督が、遺伝子組み換え作物と原発の危険性に迫るドキュメンタリー。GMトウモロコシを2年間ラットに与え続けた研究実験に密着するとともに、福島第一原発事故が周辺農家に与えた影響を描き、原発と遺伝子組み換えという2つの技術の関係を明らかにしていく。…≪続きを読む。

渋谷・アップリンクほかにて全国順次公開中

 『世界が食べられなくなる日』は、遺伝子組み換え食品と原子力、二つのテクノロジーの共通点に迫った作品だ。本作の中心となるのは、実験対象となったラットに、3か月間変化が見られなかっただけで安全とみなされた遺伝子組み換え食品と「ラウンドアップ」に疑問を持ち、2年間にわたって行われた実験。『モンサントの不自然な食べもの』が製作された2008年には明らかにされていなかった遺伝子組み換え食品の問題に迫る一方で、『チェルノブイリ・ハート』にも描かれていないチェルノブイリ原発事故で死者の数が隠ぺいされた事実も指摘する。

 また本作では、2011年3月11日に起きた福島第一原発事故の問題点も指摘。フランスと日本の原発事情が類似していると述べる欧州議会議員のミシェル・リヴァジ氏が事故後、日本政府が子どもの甲状腺がんを予防できるヨウ化カリウムの錠剤を配布する指示さえも出さなかったことを指摘する姿には、日本の対応の甘さに気付かされる。そして、福島の人々が語る「モルモット扱いにされているような感じがします」という言葉が、遺伝子組み換え食品と原子力に共通する恐ろしい実態を洗い出す。

 モンサント社を題材にしたのでは? といわれるジョージ・クルーニー主演の映画『フィクサー』(2007)、巨大企業による水質汚染を暴いたジュリア・ロバーツ主演の映画『エリン・ブロコビッチ』(2000)、タバコ企業の隠ぺい工作を描いたアル・パチーノラッセル・クロウ共演の映画『インサイダー』(1999)など、実話を基に企業の隠ぺい工作を描いた劇映画にも名作は多い。しかし、物語を盛り上げるための脚色が何ら加えられていないドキュメンタリー映画は、それらの劇映画に増してリアルで、より明確な観客への問題提起作となっている。今回、日本で製作された作品は取り上げなかったが、金融危機も遺伝子組み換え食品の問題も日本に影響が及んでいる問題であるし、原発の問題は今日本が最も注目すべき問題でもある。世界に、そして日本に現在起こっている問題を知る手段として、そしてそれにどう対処していくべきか考える手段として、ドキュメンタリー映画という媒体をぜひ活用してもらいたい。

文・構成:シネマトゥデイ編集部 島村幸恵

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