『時かけ』『ねらわれた学園』…80年代を駆け抜けたアイドルたち 大林宣彦監督の名語録満載!(2/4)
今週のクローズアップ
原田知世は『時をかける少女』で引退するはずだった!?
山口百恵、薬師丸ひろ子、小林聡美、富田靖子ら数々の女優を輝かせてきた大林監督は、女優の条件は「目だけを見ればいい」というのが持論だ。 「ヘアメイクや衣装で外見を変えられても、目だけは本人が作るしかない。つまり本人が今、どんな本を読んで何を考えているのか、どんな人を好きなのか、この時代をどう思っているのか。その人の心が目に表れるわけで。だから目っていうのはその人の心なんですよね。それと視覚的にも、映画女優は目が大きくなきゃいけないんだけど、知世ちゃんの目は小さかった。だから本来は女優向きではない。そんな彼女がスターになっちゃったところが、一つの奇跡ですね」
そんな原田の目を輝かせたのはスタッフの力だが、そこにはハードなスケジュールのなか、音を上げずに華奢な体で撮影を乗り切った原田のひたむきさがスタッフの心を動かしたという背景がある。大林監督は原田を中学校の卒業式と高校の入学式に出席させるために、40日かかるところを28日で撮影を終えるスケジュールに挑んだ。撮影の4時間前に起床する必要があるため寝る時間はなかったが、食事の時間だけはたくさんあり打ち合わせを兼ねて10食も用意されていた。「もちろん食べなくてもいいんだけど食べながら打ち合わせをしているからいた方がいいし、控え室に帰ってもいいんだけど、昔の女優さんはちゃんと現場にいたよ。ほかの人が演技をしているのを見るのも勉強になるし、見ないと自分がどうすればいいのかがわからない」と大林監督から諭された原田はこの教えを守り、夜中に食欲をなくすスタッフをよそに豚汁を三杯もたいらげたという。「これから大事なシーンを撮るのに、セリフの練習をしようとしたら豚汁が出ちゃいそうだから、縄跳びで一所懸命おなかに収めているんです」といったほほ笑ましいエピソードも。
「あるとき照明部さんがライトを持ってきて『知世ちゃんの目をきらっと光らせたいんですけど、彼女の目は小さくて反射光がこなくて、大きなライトで当てる必要があるんだけど、それだと目に良くないからセットの上に上げたいんです。30分ください』という。そこから今度は撮影部が『床を掘って、移動車を引きたいんです』と。で、1メートルぐらい掘ってレールを敷いて。理由を尋ねたら、『知世ちゃんが動いたらカメラを動かしてライトの光が目に当たるようにするんです』と。それでまた1時間。ものすごく手間暇がかかるんだけど、知世ちゃんが頑張っているのがわかるから、何とかこの子の目を光らせてあげようと。スクリーンでは目が横幅数メートルにもなる。それが真っ黒の洞穴か、真ん中にきらっとした光があるかで全然映りが違ってくるんです。そんなスタッフの情熱があったからこそ、知世ちゃんの小さな目がきらっと光って、お客さんはキュンときたわけですよね。だから、僕は彼女に『君がここまで人気が出て女優になれたのは、君の胃袋のおかげだよ』と言いました(笑)」
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