『時かけ』『ねらわれた学園』…80年代を駆け抜けたアイドルたち 大林宣彦監督の名語録満載!(4/4)
今週のクローズアップ
大林組はマネージャーの立ち入り禁止
スクリーンデビュー作『時かけ』では原田いわく「ぽきぽきしたお人形さんみたい」で、監督の掌で転がされているような感があったというが、続く『天国にいちばん近い島』(1984)では演出の手綱をゆるめたという大林監督。本作では原田にめがねをかけるというシチュエーションのみ与え、「(めがねをかけると)見ようとしても見えづらいかもしれない。その代わりに心が研ぎ澄まされていくから、その目でニューカレドニアを見なさい」と指示した。ウベアの村で子供たちと歌い交流したり、次第に現地に溶け込んでいった原田は「不思議な音が聞こえます。貝殻が波に揺れて、何とも言えない音が聞こえます。文明の音ばかり聞いていて、自然の音を聞いていなかったのが、ニューカレドニアの音が聞こえるようになりました」と役をつかむことになった。
太陽がさんさんと輝く島国で全編ロケを行い、小麦色に日焼けした原田の生き生きとした表情が刻み込まれた記念碑的な作品で、原田は今は亡き父に教えられた「天国にいちばん近い島」を探すため単身ニューカレドニア島に渡った内気な高校生にふんした。中でも印象深いのが、異国の地での心細さを爆発させドラム缶の風呂で号泣するシーンだ。メイキング映像の中で、撮影の際、なかなか泣けない原田に辛抱強く接する大林監督からは、原田に対する深い愛情が見て取れる。そして、のちに大林監督は本作の撮影で出会った原田の姉・貴和子を主演に迎えた『彼のオートバイ、彼女の島』(1986)を撮ることとなる。美しく捉えられた貴和子の肉体はもちろん、その日の気分によってモノクロ、カラーを撮り分けるという斬新なアイデアが目を引く本作だが、そういった実験的な試みに対して周囲から反対の意見が出ることはなかったのかと尋ねると、大林監督は驚くべき事実を明かした。
「知世ちゃんに限らず、うちの現場はマネージャー立ち入り厳禁なんです。スタッフがいわば家族のような役割も果たしますからね。例えば、アイスクリームを食べていいかどうかもメイクさんが決める。『あなたは今日にきびが出ているからアイスクリームはやめなさい』、あるいは『半分だけならいいよ』とかね。そうやって、箸の上げ下ろしまで教える。美しい人間に成長できればいい演技ができるんです。うちでは、女優さんを娘のように、あるいは孫のように育てるからビジネスライクはダメ。だからマネージャーさんが来ても口を出さない。マネージャーさんが来ると『商品』になってしまうから」。
最後に「知世ちゃんやひろ子ちゃんがおばあちゃんになったころに一緒に映画を作りたいね」と笑う大林監督。スパルタ式で女優を鍛え上げる監督もいるが、大林作品の女優たちが気品、ピュアな魅力を携えているのは、間違いなく監督が「娘のように、孫のように」接し、育てたからだろう。今年4月にイタリアで開催されたウディネ・ファーイースト映画祭では『HOUSE ハウス』(1977)、『ねらわれた学園』『転校生』『時をかける少女』の初期の代表作4本が上映され、生涯功労賞を受賞。近年は『この空の花 長岡花火物語』(2012)、『野のなななのか』(2013)など北海道や新潟など地方都市を舞台にした反戦映画を手掛けており、8月には檀一雄の小説「花筐(はなかたみ)」に基づく、佐賀の唐津を舞台にした新作がクランクインを迎える。
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