2018年 第31回東京国際映画祭コンペティション部門16作品紹介
第31回東京国際映画祭
10月25日(木)~11月3日(土・祝)に開催される第31回東京国際映画祭のコンペティション部門全16作品を紹介。日本からは、稲垣吾郎×阪本順治監督の『半世界』と、直木賞作家・角田光代の恋愛小説を今泉力哉監督が映画化した『愛がなんだ』の2本がエントリー。その他、長編3作目となるレイフ・ファインズ監督作や、ワールドフォーカス部門でも特集されるイスラエル映画など、例年を上回る1824本から選りすぐりの16本をご紹介! 今年も本部門のプログラミングディレクター・矢田部吉彦氏が全作品の注目ポイントをズバリ解説します。(取材・文:岩永めぐみ/編集部 浅野麗)
<東京グランプリ/東京都知事賞>/<最優秀脚本賞 Presented by WOWOW>『アマンダ』
製作国:フランス
監督:ミカエル・アース
キャスト:ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトゥリエ
青年と少女による家族の再生物語
美しい夏の陽光が降り注ぐパリ。自由を謳歌していた青年ダヴィッドは、ある日、予想だにしない悲劇によって姉を失う。シングルマザーだった姉の死により、天涯孤独となった姪のアマンダと暮らすことになるが……。
ここに注目>> ミカエル・アースはフランスで注目度急上昇の監督で、とても美しい作品を撮る人です。パリで起きたある悲劇をきっかけに、若くして姪っ子の父親代わりになった青年と、母親を喪った少女がどう立ち直るかという物語で、激動する世界の中で我々はどう生きていくかというテーマを含みながら、家族の再生が描かれています。
<観客賞>『半世界』
製作国:日本
監督:阪本順治
キャスト:稲垣吾郎、長谷川博己
現代人への強いメッセージが込められた作品
地方都市で、備長炭を製炭する炭焼き職人として働く紘。ある日、帰郷してきた中学時代からの友人である元自衛官の瑛介との再会を機に、仕事や家族に向き合っていなかった自分に気付き、自身を見つめ直そうとする。
ここに注目>> 阪本順治監督が世界をどう見ているかについての作品であり、そして主人公の男性が自分の世界をどう作っているかを描く物語でもあります。監督の見事な脚本に、現代社会に生きる我々への強いメッセージが込められています。主演の稲垣吾郎さんは『十三人の刺客』での映画史上に残る悪役以来、もっと映画に出てほしいと思っていましたが、その期待が報われる素晴らしさです。隅から隅までいい映画だと思います。
<審査委員特別賞>/<最優秀男優賞>イェスパー・クリステンセン『氷の季節』
製作国:デンマーク
監督:マイケル・ノアー
キャスト:イェスパー・クリステンセン、マウヌス・クレッパー
リアリズムに裏付けされた格差社会の闇
1850年代のデンマーク。農村で、極貧にあえぐ農家の主イェンスは、冬が近づくにつれ厳しさを増す状況に、娘を裕福な地主と結婚させ、貧困からの脱却を図る。だが、思惑とは裏腹に残酷な運命が交差する。
ここに注目>> 監督のマイケル・ノアーは2012年のコンペティション部門で上映された『シージャック』の脚本を書いていて、現在のデンマーク映画シーンをリードする監督の一人です。19世紀の農村地域を舞台にしながら、現代の格差社会にも通じるテーマを描いています。とてもリアリズムがあって、美術、衣装、撮影など見応えのある作品です。主演のイェスパー・クリステンセンも素晴らしく、映画が締まりますね。
<最優秀監督賞>エドアルド・デ・アンジェリス/<最優秀女優賞>ピーナ・トゥルコ『堕ちた希望』
製作国:イタリア
監督:エドアルド・デ・アンジェリス
キャスト:ピーナ・トゥルコ、マッシミリアーノ・ロッシ
たくましいヒロインの激しく美しいサバイバルドラマ
ナポリ郊外、イタリア屈指の無法地帯と呼ばれる荒れた海辺の街。人身売買組織の手先として働くマリアは、逃げた娼婦を探していた。だが、自らの妊娠を機に人生を変える賭けに出る。
ここに注目>> イタリアで急速に名前が知られるようになったエドアルド・デ・アンジェリス監督は、ヘビーなネタを美しく見せるのが上手い。イタリアでもっとも危険といわれるナポリ北部が舞台で、犯罪組織から抜け出そうとするヒロインがとてもたくましく、新鮮。海沿いにある荒れた地を、美しくファンタジックに撮った監督の演出も見事です。
<最優秀芸術貢献賞>『ホワイト・クロウ(原題) / The White Crow』
製作国:イギリス
監督:レイフ・ファインズ
キャスト:オレグ・イヴェンコ、レイフ・ファインズ
伝説のバレエダンサーの刺激的な半生
史上最高のバレエダンサーの一人、ルドルフ・ヌレエフ。型破りな技術と性格を持つ彼のキャリアの開花から、パリ公演でのスリリングな亡命劇など、彼の半生を描く。
ここに注目>> 今年の目玉の1本になるかもしれません。長編監督作3本目のとなるレイフ・ファインズはロシア文化に造詣が深くて、ロシア人ダンサーのルドルフ・ヌレエフの伝記を20年ほど前に読んで、長らく映画化の構想を抱いていたそうです。バレエのシーンもたっぷり見られますし、亡命劇がとてもスリリングでスリラー映画としてのおもしろさもあります。レイフ自身もヌレエフの先生役で出演しています。
『愛がなんだ』
ヒロインの強烈な愛に圧倒される究極の恋愛映画
28歳の会社員・テルコは、マモルのことが好きになって以来、彼一筋の生活を送っていたが、マモルにとってテルコは、ただの都合のいい女でしかなかった。そんなある日、突然マモルからの連絡が途絶えてしまう。
ここに注目>> ずばりの恋愛映画としては、今回のコンペティションでは『愛がなんだ』が唯一です。今、恋愛映画を撮らせたならこの人だという今泉力哉監督が、原作の角田光代さんの女性の視点を獲得して、新たなステージに進んだ印象を持ちます。ヒロインの強烈な愛によって映画に徐々に強みが加わって、恋愛映画を超えた領域に入っていくのですが、そこがほかの作品と同じ土俵で紹介したいと思わせた理由です。