2018年 第31回東京国際映画祭コンペティション部門16作品紹介(2/3)
第31回東京国際映画祭
『ブラ物語』
製作国:ドイツ、アゼルバイジャン
監督:ファイト・ヘルマー
キャスト:ミキ・マノイロヴィッチ、パス・ベガ
彩られた世界で綴るセリフのないおとぎ話
のどかな町中を走る列車の機関士は、車体に引っかかったブラジャーを見つけ、まるでガラスの靴の持ち主を探すシンデレラの王子のように、その持ち主を探し始める。
ここに注目>> 『ツバル』などのファイト・ヘルマー監督が撮った、おとぎ話のような映画のルックが見ていて楽しく、とても心温まる作品です。特徴的なのはセリフがないこと。役者の存在感、音楽や映像が重要になりますが、エミール・クストリッツァ監督作品などに出ている東ヨーロッパの名優、ミキ・マノイロヴィッチの存在感がたっぷりです。
『ヒズ・マスターズ・ヴォイス』
製作国:ハンガリー、カナダ
監督:パールフィ・ジョルジ
キャスト:ポルガール・チャバ、ペテルソン・エリク
映画的な見応えのある鬼才監督の世界
幼少時に去った父の行方を調べる兄弟の前に、アメリカの巨大な陰謀が見え隠れする。父は国家犯罪に関わっていたのか。宇宙と家族を繋ぎ、人類の創生に踏み込む、奇想天外な物語。
ここに注目>> 原作は『惑星ソラリス』のスタニスワフ・レムで、家族の物語に宇宙船や生命の起源など、いろんなものが絡んできます。パールフィ・ジョルジは鬼才と呼ぶにふさわしい世界的な監督で、奇妙だけど映画的な見応えのある作品を撮ることで有名。今作もすごいものを見ちゃったなという圧倒感が半端ないです。ワールドプレミアなので、世界で最初の観客になって、その驚きを世界に発信していただきたいと思います。
『大いなる闇の日々』
製作国:カナダ
監督:マキシム・ジルー
キャスト:マルタン・デュブルイユ、ロマン・デュリス
独特な雰囲気を放つ不条理ダーク・スリラー
第2次世界大戦中。チャップリンのものまねをする芸人の男が故郷カナダに帰国を試みるが、荒れ地の中で交通手段を失ってしまう。偶然にも親切な男に助けられるが、行先には意外な落とし穴が待っていた。
ここに注目>> カナダのフランス語圏の監督による不条理ダーク・スリラーです。第2次世界大戦中が舞台で、ファシズムがメタファーとして強く意識されていて、映像はダークだけれど美しくてかっこいい。フランス映画ファンにはおなじみの、ロマン・デュリスやレダ・カテブといった実力派俳優が出演しています。非常に独特な雰囲気のある作品です。
『ヒストリー・レッスン』
製作国:メキシコ
監督:マルセリーノ・イスラス・エルナンデス
キャスト:ベロニカ・ランガー、レナータ・ヴァカ
教師と生徒による世代を超えた奇妙な友情
ベテラン女性教師のヴェロは、転校してきた生徒エヴァのあまりの反抗的な態度にうろたえる。だが、お構いなしにヴェロの生活にずけずけと侵入してくるエヴァとの間に、やがて世代を超えた奇妙な友情が芽生えていく。
ここに注目>> ストレートなヒューマンドラマであり、女性映画です。年齢の離れた二人の女性がそれぞれに問題を抱えているのですが、やがて二人で旅に出るロードムービーになり、感動が待つラストに向かっていきます。心にしみる作品で、二人のコンビネーションがなんともいえずいい。主演女優賞の有力候補だと思います。
『翳りゆく父』
製作国:ブラジル
監督:ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ
キャスト:ジュリオ・マシャ-ド、ニナ・メデイロス
ブラジル発注目のホラー系アートムービー
母を亡くした少女は、怪しいおまじないで願い事を叶えようと夢中になる。同じく、妻を亡くし落ち込む父は、リストラに怯え、次第に様子がおかしくなっていく……。
ここに注目>> ブラジルのホラー系アートムービーが海外の映画祭で受賞しているなど、新しいブラジル映画の波がきています。そのブームを引っ張る若手監督の一人が、ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督です。母親を亡くした一家があり、娘のオカルト趣味と父親の憔悴っぷりが交わっていって、だんだんホラー風になっていくという(笑)。非常に風変わりな作品です。