2018年 第31回東京国際映画祭コンペティション部門16作品紹介(3/3)
第31回東京国際映画祭
『シレンズ・コール』
製作国:トルコ
監督:ラミン・マタン
キャスト:デニズ・ジェリオウル、エズギ・チェリキ
大都会を舞台にした風刺の効いたブラックコメディー
再開発ラッシュが進む大都会イスタンブール。建設会社勤務の男は醜い都会に疲れ果て、地方でオーガニックな生活を楽しむ女性シレンに会うべく脱出を図る。だが、障害が相次ぎ街から出ることが出来ない。
ここに注目>> 都会に暮らす人にとってはとても身近なテーマの映画です。トルコのイスタンブールで暮らす男性が都会の喧騒から脱出しようとするのですが、まるで結界が張り巡らされているかのように街から出られない。不条理なブラックコメディーで、都会人の脱出願望だったり、逆にオーガニック幻想だったり、現代社会への皮肉が猛烈に効いています。
『テルアビブ・オン・ファイア』
製作国:ルクセンブルグ、フランス、イスラエル、ベルギー
監督:サメフ・ゾアビ
キャスト:カイス・ナシェフ、ルブナ・アザバル
複雑な中東情勢を笑いに変えた極上エンタメ作
パレスチナの女スパイがイスラエル将校と恋に落ちるというドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」が大ヒット。制作現場で働くパレスチナ人青年のADは、ひょんなことでイスラエルの検問官から脚本の着想をもらうが……。
ここに注目>> ここ数年、イスラエル映画に秀作が目立ってきています。複雑な政治問題をコメディーで伝えるのは一番難しく、しかしそれが成功するととても有効なんですよね。政治ネタがコメディーとしてわんさか盛り込まれていて状況がおもしろく伝わってきますし、人々がそんな状況の中でどう生きているかというのがとても丁寧に描かれています。楽しいし、勉強になるし、一石五鳥くらいの映画です。
『ザ・リバー』
製作国:カザフスタン、ポーランド、ノルウェー
監督:エミール・バイガジン
キャスト:ジャルガス・クラノフ、ジャスラン・ウセルバエフ
計算し尽された美が詰まったアート・ムービー
文明から隔絶された辺境の地で暮らす5人の兄弟。家の仕事を共にこなし、仲良く川で遊ぶ。だが、そんな彼らの平穏な日々は、都会から来た少年によって崩れてゆく……。
ここに注目>> 100パーセント、ピュアなアート映画です。美しい映画が観たい方、現代アートが好きな方、コアなアート・フィルムファンにおすすめです。監督のエミール・バイガジンは、デビュー作がベルリン国際映画祭のコンペティションでいきなり賞をとった才人。物語のタッチはゆったりとしているのですが、構図が計算し尽くされていて、一つ一つの構図に息を飲むというくらいに映像が見事です。
『詩人』
製作国:中国
監督:リウ・ハオ
キャスト:ソン・ジア、チュー・ヤーウェン
時代の荒波に翻弄される夫婦の愛の物語
経済大国前夜の中国。炭鉱で働く詩人の夫と彼を支える妻は、将来を夢見て深く愛し合っていた。だが、炭鉱を訪れたある高名な詩人が夫婦関係に微妙な影響を及ぼしていく。
ここに注目>> 毛沢東からトウ小平への時代に、鉱山で働く詩人の青年と彼を支える妻が激動の時代の荒波に翻弄される物語です。広大な鉱山のショットだけでもこの映画を観た甲斐があるというほどに圧倒的で、自然の雄大なショットと緻密な室内のショットのコントラストもおもしろく感じられます。ジャ・ジャンクーと同じ中国第6世代に属する、リウ・ハオ監督の演出にも注目していただきたいです。
『三人の夫』
製作国:香港
監督:フルーツ・チャン
キャスト:クロエ・マーヤン、チャン・チャームマン
香港インディー界が放つ強烈なエロチシズム
半人半魚伝説が残る香港の港で、ボート暮らしをしながら客を取る不思議な娼婦。彼女は、3人の夫に愛され、ひたすら行為を続けるも足らず、娼婦として客もとるほどに、人間離れした性欲を持っていた。
ここに注目>> 香港インディペンデント界の雄であるフルーツ・チャン監督が、“買春3部作”と呼んでいる『ドリアン ドリアン』『ハリウッド★ホンコン』に続く3作目です。映画の半分近くをセックスが占める印象です。しかし、香港の変遷をずっと見てきたチャン監督が娼婦のヒロイン像に込めたメッセージについて考えると、この映画が味わい深くなっていくだろうと思います。