判決、ふたつの希望 (2017):映画短評
判決、ふたつの希望 (2017)ライター3人の平均評価: 4.7
根深い対立をハリウッド話法で魅せ、カタルシスを与える超絶技巧
2人の中年の男の些細な諍いで始まる、スリリングな導入。やがて国を揺るがす事態へと発展し、法廷劇に手に汗握らせるまで、息つく暇も与えない。舞台はレバノン。複雑な民族的背景をもち、暗く重い過去を引きずる両者には、それぞれの正義がある。火種が拡大するきっかけは、許されざる一言だった。尊厳をめぐる情念に満ちた対立を、渡米してタランティーノ組の撮影部で学んだジアド・ドゥエイリ監督は、ハリウッド的な話法と雄弁なキャメラワークで描く。分かり合えぬ分断の厳しさを普遍化し、魅せる術に長けている。そして提示される、和解へのささやかな可能性。政治的テーマをエンタメに昇華し、カタルシスまで与える超絶技巧を堪能した。
社会派と敬遠したら損。エンタメ的に引き込まれる
タイトルからコテコテの社会派作品のイメージが漂うが、語り口はじつにテンポよく軽快。宗教やモラルで対立する主人公2人に対し、観ているわれわれが、こっちに共感、あっちの気持ちも納得……とスリリングに行き来する感覚は、ハリウッド映画の上質エンタメのようだ。さすがにタランティーノの現場で学んだ監督だけのことはある。
万国共通の家族ドラマも描きつつ、日本人には馴染みの薄い、レバノンにおけるパレスチナ人移民の問題に鋭く切り込んでいく脚本が秀逸。ノンストップで引き込みながら、まだ知らぬ世界の現実を観客に伝える。そして人間心理の複雑な裏オモテも浮き彫りにする。これって、まさに「映画の見本」ではないか?
難民、人種問題の複雑さを、一般人の視点から深く語る
ちょっとした工事が原因で衝突したレバノン人の住人とパレスチナ人の作業員。この些細な出来事は、当人たちの思惑を超え、政治を巻き込んだ一大ニュースとなっていく。中東の複雑さをよく理解できていない我々にとっては勉強になることが多数。しかし、難民や人種差別の問題というのは、今、世界的に注目されている身近なトピックだ。また、これはあくまで普通の人の普通の生活を描く人間ドラマ。物語が進むうちに、必ずしもこのうちひとりが悪者でないこともわかってきて、さらに心が揺さぶられる。最後に出てくる「苦しんでいるのは一方だけではない」というせりふが、まさにこの映画を象徴する。