略歴: 茨城県出身。スポーツ紙記者を経てフリーの映画ジャーナリストに。全国商工新聞、月刊スカパー!(ぴあ)、時事通信などに執筆中。
近況: 映画祭で国内外を飛び回っているうちに”乗り鉄”であることに気づき、全国商工新聞で「乗りテツおはるの全国漫遊記」を連載。旅ブログ(ちょこっと映画)もぼちぼち書いてます。
”ウーマン”村本を通して、”お笑い”の概念と、この国の世相を考察させられる今見るべき作品だ。エンタメに携わる人が政治を語ると批判されるこの国において、社会ネタで勝負する村本は異物だ。だが原発、日韓、戦争問題など当事者たちと語り合い、ネタに落とし込む彼は至極真っ当だ。真っ当なその視点も、スタンダップコメディーの本場米国ではone of themであることも突きつけられる。この違いは何だ?? 少なくとも風刺の効いたエンタメが常識ゆえ、米国では日常的に差別や政治について考える土壌が育っているという。それらを排除してきた結果が、狡猾な輩が蔓延る今の日本であることを浮かび上がらせるのだ。
台湾南部の壮大な自然の中を走る南廻線の気動車を、時に運転席から、時に上空から、愛でるように撮影した映像だけでも一見の価値がある。だが監督は、鉄道オタクではないという。ではなぜ愛溢るる絵が撮れたのか? ひとえに監督の、先人たちへのリスペクトがそうさせるに違いない。監督はこれまでも多方面から台湾史を掘り下げてきたが、本作もその一環だ。他国の支援を受けず台湾だけで開設した路線で、建設には台湾原住民が駆り出されたこと、さらには連続爆破事件勃発など、台湾近代化に犠牲と献身を尽くした名もなき人たちに光を当てる。本作は台湾初の鉄道ドキュメンタリーだという。記録することの意義を実感するだろう。
『百円の恋』のリメイクだが、大筋以外はほぼ別物。むしろ、賛否あったオリジナル版のラストより、己との戦いにフォーカスした本作の方を支持したい。ヒロインは恋も仕事も諦めモードなら、一人っ子政策時代には無かったであろう、姉妹間の派閥争いで家から追われる負け犬。競争厳しい中国で滅多に見られないヒロイン像が現地で共感を得られたと思うが、”生きづらさ”は各国共通であることを改めて考えさせられるに違いない。別物なのにあえてリメイクとしたのは、主演・監督のジャーの本気に火を付けた安藤サクラへのリスペクトだろう。安藤に負けず劣らずの熱量がスクリーンから伝わってくる力作だ。
Eテレ「no art, no life」のディレクターであり、ドキュメンタリー編集者・伊勢長之助を祖父に、同監督・伊勢真一を父に持つ伊勢朋矢の、ドキュメンタリストとしての魅力が詰まった1本だ。言葉に出来ない感情を、時に唸りながら絵として表現していく画家・西村一成氏の制作現場に入り、創造の真髄に肉薄する。決して、個を主張するワケではない。だがカメラの前で起こること全てを受け止めながら、少しずつ丁寧に、被写体の世界の一部となって心根を引き出していく様は一種の才能であり、紛れもなく伊勢印。そして映画は、西村氏にとっての”no art, no life”の理由を見事に代弁している。
同じ前田哲監督の前作『老後の資金がありません!』でコメディデンヌとして新境地を開拓した草笛光子。人生の大先輩に対して失礼ながら、まだ伸び代があるのかという尊敬と、まさかの齢90歳にしてハマり役に出会うという人生の奥深さを拝見している気分。どんな苦難が待ち受けていようと気品さを失わず、ブレずに生きていた小説家・佐藤愛子が綴った痛快な格言・名言の数々と、コスプレ年賀状を作成するようなお茶目さを併せ持つ人物を、これほど説得力を持って広く大衆に伝えられるのは、彼女しかいるまい。配給の松竹的にもシリーズ化の鉱脈見つけたり? ただその時は、寅さん並みの会話劇の妙とテンポの良さを期待。