スクロール (2023):映画短評
スクロール (2023)ライター3人の平均評価: 3.3
『CUBE 一度入ったら、最後』監督らしい仕上がり
疎遠だった友人の死を知ったことから始まる日常を綴った“生きづらさ”映画。理想と現実に挟まれ、もがき苦しむ男女4人の群像劇なのだが、これだけ芸達者で、いい素材を集めながら、ムダ遣いとは言えないまでも、活かしきれていないあたり、いかにも『CUBE 一度入ったら、最後』監督らしい仕上がりだ。“閉塞感”繋がりの起用かもしれないが、映画オリジナルとなる冒頭シーンの長回しから、いろいろ演出が空回りしている感もあり、人間ドラマとしては浅め。120分の尺を使っても、なんだかんだ、パワハラ演技炸裂“20年後の『リリイ・シュシュのすべて』”ともいえる忍成修吾がかっさらっていった印象が強い。
果てしのない閉塞感に包まれた若者たちのリアル
橋爪駿輝の原作で、北村匠海、中川大志、松岡茉優、古川琴音が共演し、Saucy Dogが主題歌を歌う。非常に2023年的な座組なのだが、映画を包んでいるのは果てしのない閉塞感だ。映像も暗い。彼らはどこへ行っても何らかのハラスメントに遭い、常に社会から抑圧されている。逃げ出す手段もなくて、手にしてるのはSNSぐらい。いつも自殺のことを考えていたり、結婚さえすれば何かが変わると考えていたり、人間関係そのものから逃げていたり。これが今の若者たちのリアルな物語なのだということなのだろう。ささやかな暴言を吐くことが唯一の抵抗で、彼らの生活に映画も音楽も本も登場しないところも、ある意味、とても今っぽかった。
若者たちが抱えた生きづらさの本質とは
自殺願望を抱えた大人しくて目立たない会社員・北村匠海と、世渡り上手でノリの良いテレビ局員・中川大志。この対照的な2人を中心に、ギスギスとした生きづらい現代の日本社会で、自己を確立できないまま漠然と生きている若者たちが、ある人物の死をきっかけにして、それまで見て見ぬふりをしてきた、もしくは先送りにしてきた自身の問題と向き合わねばならなくなる。登場人物それぞれの視点に立った複数のパートでストーリーを構成しながら、その生きづらさの本質をじっくりと見極めていく脚本はなかなか秀逸。結局、より良い方向へ社会を変えたいのであれば、その構成員である自分自身がまずは変わらなくてはいけないのだろう。