略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。
近況: YouTube「ダブルダイナマイトのおしゃべり映画館2022」をほぼ週1回のペースで更新中です。
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今の時代の富める者は、何か人の役に立つモノを作ったり、サービスを提供したりしている人ではなく、金融のルールを利用して、働いている人たちを踏みつけにしながら暴利を貪っている連中だ。しかも、スクラムを組んで邪魔者を徹底的に排除している。本作は、そんな連中に「株のフランス革命」とも呼ばれるレジスタンスを仕掛けた庶民たちの実際にあった物語だ。主人公サイドだけでなく、汚い手を使う既得権益層もちゃんと実名で登場させているのがいい。コロナ禍で酷い目に遭ったのが誰なのかも明らかにしている。金持ちや政治家に媚びを売り、(本当は何の得もしていないのに)自分も強者になった気分になっている人たちにこそ観てもらいたい。
話題作を送り続けている東海テレビドキュメンタリーの最新作。「断らない救急」を掲げる名古屋掖済会病院には、昼夜を問わず近隣の病院が受け入れなかった患者たちが次々と運び込まれる。救急車の受け入れ台数、年間1万台。なかには身寄りのない人や、保険に入っていない人、治療費を払わずに逃げてしまう人もいる。それでも彼らは患者たちを受け入れ続ける。自らこの世界に飛び込み、苦悩しながらも、前向きに患者たちを治療し続ける医師たちは、とてもヒロイックに見える。だが、ナレーションを排した静かな映像を通して、日本社会の薄氷のような底をわずかな数の救命医師たちが背負っていることに否が応でも気付かされるだろう。
「この国では、権力者に都合のいいように、選挙のやり方が壊されている」。そう語ったのは杉並区長選に出馬した岸本聡子だ。だけどそこで諦めてしまわず、市民運動をしていた人たちと結束し、時にはぶつかり合いながら、現職を破って当選してみせた。仲間たちも次々と区議選に当選して、杉並区議会を変えようとしている。日々流れてくる政治や社会についての理不尽なニュースで苦い思いをしている人は必見の作品だろう。政治は自分たちと地続きだし、政治は自分たちで変えることができる。「民主主義と社会正義の実現には不断の努力が必要」という岸本の言葉のとおりだ。作品の伝えたいことがよりクリアになるパンフレットの購入をおすすめ。
我々の「幸せ」は見知らぬ誰かの犠牲の上に成り立っているのではないか? 理不尽なことに見て見ぬふりをして今ある現実を受け入れなければいけないのか? 地方の因習を扱っているように見えて、実は現代を生きる我々全体の問題をえぐり出そうとする社会派ホラー。「現実を知れ」「お花畑」などの言葉が普通の人々の口から出てくる嫌な感じをよく描いている。恐怖に直面した主人公がまったく解決策を得ることができない泥沼感もよく出ていた。あとは、頻出するシュールな描写を受け入れられるか、受け入れられないかで評価が変わる作品だと思う。古川琴音はホラークイーンの素質十分の大熱演。個人的には真逆のラストが見たかった。
「友のために命を捧げるほど偉大な愛はない」。これまで何度も映画化されたウルグアイ空軍機の墜落事故を映画化。アンデスの山中に墜落した乗客たちが、寒さと飢えと次々と襲いかかるアクシデントと戦いながら生き抜いていくさまを描く。乗客のラグビーチームの学生たちは、お互いに険悪になったり、争ったり、エゴに染まったり、できない理由を声高に叫んだりすることなく、状況に応じて自分たちにやれることを探し、励まし合い、時にはユーモアさえ忘れず、諦めず、果敢に行動する。衝撃的な映像もあれば、凄惨な描写もあるが、監督のJ・A・バヨナの視線は優しい。我々も大災害と隣り合わせに生きている。だからこそ、より胸にしみる作品だ。