君たちはどう生きるか (2023):映画短評
君たちはどう生きるか (2023)ライター4人の平均評価: 4
三つ子の魂百まで
10年ぶりであろがなんだろうが、”宮崎駿は宮崎駿である”ということがこれでもか!と焼き付けられた作品。まさに”三つ子の魂百まで”と言ったところ。わかりやすいエンタメ性はさらにその度合いを少なくし、こちらに読み解かせる部分が多く、万人向けとは言い難い部分もありつつも、それでも124分という上映時間があっという間であったのは間違いなく、そういう点で言えばブランクや年齢は感じさせないのは流石です。映像の美しさはIMAXで見たこともあって、圧巻の一言。”宣伝をしない宣伝”については今回限りの荒業かと。
期待を裏切らない“ジブリ版『少年時代』”
疎開先で、暴なアオサギに誘われるがまま、異世界に迷い込む“ジブリ版『少年時代』”。当初、原作になると噂された同名小説も劇中に登場するもストーリーには絡まず、おなじみのファンタジー展開に突入。さまざまな人々や可愛くて不気味な生物(鳥類多め!)の出会いと別れを繰り返す主人公の成長物語としての仕上がりは、『千と千尋の神隠し』に近い。ジブリの原点である『王と鳥(やぶにらみの暴君)』の要素も入った、まさに集大成であり、前作『風立ちぬ』よりも幅広い層が楽しめる。ただ、自伝的要素が強いため、クセスゴ感はハンパなく、宮崎駿監督のメッセージ「私はこう生きた」の受け止め方次第で、評価は変わるだろう。
おじいさんがこしらえた孫世代向けの冒険ファンタジー
宮崎駿の集大成。『未来少年コナン』『カリオストロの城』『ナウシカ』『ラピュタ』『トトロ』『魔女の宅急便』『紅の豚』『もののけ姫』『千と千尋』『ハウル』『ポニョ』『風立ちぬ』の要素がごちゃまぜに詰め込まれていて、同時代的な表現はまったくない。だけど、森があって、海があって、波があって、火があって、石があって、鳥がいて、変ないきものもいる。おじいちゃんが横文字を借りず、アバターにも頼らず、自分の好きなものを組み合わせ、自分の生い立ちと重ね合わせながら、孫、ひ孫世代に向けて、幻想の世界にとどまるな、ろくでもない世の中を良くするのはお前たちなんだよ、と語りかける冒険ファンタジー。いいものを見た。
感覚的には「千と千尋」にいちばん近いかも
キャラクターデザインの魑魅魍魎なセンス。何かが大量で放たれるビジュアル、その色彩や大きさなど、過去の宮崎作品の思い出が鮮やかに蘇る瞬間が何度も。主人公を取り巻く状況と変化も含め『千と千尋の神隠し』を観た時の記憶がシンクロした。
ただ主人公の行動原理は弱めに感じるので、共感できるかどうかは人それぞれか。
音楽の分量が多く感じられ、そのせいか物語に流れるように乗っていける。
時代設定や人々の置かれた立場から、社会的テーマがせり出す予感が漂うも、あるキャラクターのセリフは、明らかに宮崎駿監督の最後のメッセージと捉えることができ、あくまでもパーソナルな作品という印象。そこがこの巨匠らしく、感慨深い。