清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • レディ・ガイ
    のちのち語り草になるであろう劇画調リベンジアクションの珍作
    ★★★★★

     珍作だが、のちのち語り草になるかもしれない。殺し屋フランクが裏切られ襲撃されて気を失い、目覚めれば女性へ性転換手術されており、復讐に燃える…。フランクは最初から髭を付けたミシェル・ロドリゲスにしか見えないのだが、陰部をしっかり映して術前/術後を強調する。名匠ウォルター・ヒルの演出はリアルとアンリアルの狭間をうろつき、挿入される劇画調の映像処理は「まあ、マンガですから」というエクスキューズにも取れる。手術を施した狂気の外科医シガニー・ウィーバーへの尋問による回想がどこまで真実なのか、最後まで謎を残しモヤモヤは晴れない。トランスジェンダーの俳優を起用していれば全く違うテイストになっていたはずだ。

  • バーフバリ 王の凱旋
    ハリウッド超大作5本分のエキス!パッション1000人分配合!
    ★★★★

     所詮インドのエンタメは大仰すぎる…というシニカルな視線も踏まえている。自虐的にならず、極めて健全に、その先にある「過剰」を目指して突き抜けたインド映画の到達点。ストーリーなど追わず、ただ圧倒されればよい。男性の肉体美が躍動し、女性は優雅に歌い踊る。銀幕の可能性を追求するダイナミックなアクション。てらいなく激しく愛し合う美男美女。あまりにも純粋で完全無欠の映画の姿には、驚きを通り越して微笑むしかない。この映画に相応しいのは、栄養ドリンク的なキャッチコピーかもしれない。「ハリウッド超大作5本分のエキス!」「エンタメ濃縮還元!」「パッション1000人分配合」。無心になって一大叙事詩をご堪能あれ。

  • 8年越しの花嫁 奇跡の実話
    涙を弄ばぬ演出に応える、佐藤健と土屋太鳳の抑制の効いた好演
    ★★★★

     難病ものだが、世界の中心で愛を叫ぶことなく、実在のモデルに対し極めて誠実な作りだ。愁嘆場では劇伴すら消し、過度なメロドラマ化に抗う。時間経過の処理や伏線の張り方にもあざとさを感じさせない。闘病中のヒロインの姿は美化しすぎず、重い現実から目を背けていない。扇情的な演出を避ける瀬々敬久の下、ひたすら待つことに徹する抑制の効いた佐藤健の献身と、身体性を封じ込めたまま失われた時間を取り戻そうともがく土屋太鳳の葛藤が、観る者の心に静かに迫りくる。涙を弄ぶことのないウェルメイドな本作を、「泣ける」ばかりをフックにせず語り伝えるよう、宣伝もメディアも心掛ければ、鑑賞のリテラシーは向上していくだろう。

  • わたしは、幸福(フェリシテ)
    歌に託された力強い女性の生き様、アフリカの地に根差す生命の詩
    ★★★★

     カサイ・オールスターズの音楽がアフリカの喜怒哀楽を奏でる。フェリシテにとって「歌」は生計を立てる手段であり、生きる叫びそのもの。キャメラはとことん彼女に寄り添い、その暮らしぶりから、我々は徐々にコンゴ社会の表と裏を垣間見ることになる。冷蔵庫の故障。息子の事故。日常にさざ波が立ち、カネの工面の翻弄され、転落と再生のドラマが動き出す。アフリカの血が流れる、フランス育ちのアラン・ゴミス監督は、この地に吸い寄せられるようにして、困難に立ち向かうひとりの力強い生き様を活写し、その熱い眼差しが私たちに伝播する。ベルリンが銀熊を贈った本作は、異国の暮らしに眼を見開かせ、強いシンパシーを抱かせてくれる。

  • 勝手にふるえてろ
    理想から解き放たれ、生き始めるまでのブレーキなき助走
    ★★★★★

     「こじらせ」や「イタイ」という自虐的にこそ使う言葉に託されたキャラも、松岡茉優が演じてみせれば、受け止めて無化する強靭さと愛らしさに変換してしまう魅力を秘めている。身体が実存するこの世界ばかりが現実ではなく、脳内で妄想する世界もまた現実の一部であることを、彼女の演技の振り幅は軽々と証明してみせる。これは、こうありたいと願う理想から解き放たれ、地に足を付けて生き始めるまでのブレーキなき助走の歌。意外にも初主演作だというが、松岡は余力を残したハジケっぷり。シリアスからコミカルまで、その引き出しは無限のようだ。撮影現場で歌った同録音声だという彼女の歌声には、計り知れない生命力が内包されている。

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