8年越しの花嫁 奇跡の実話 (2017):映画短評
8年越しの花嫁 奇跡の実話 (2017)ライター2人の平均評価: 4
涙を弄ばぬ演出に応える、佐藤健と土屋太鳳の抑制の効いた好演
難病ものだが、世界の中心で愛を叫ぶことなく、実在のモデルに対し極めて誠実な作りだ。愁嘆場では劇伴すら消し、過度なメロドラマ化に抗う。時間経過の処理や伏線の張り方にもあざとさを感じさせない。闘病中のヒロインの姿は美化しすぎず、重い現実から目を背けていない。扇情的な演出を避ける瀬々敬久の下、ひたすら待つことに徹する抑制の効いた佐藤健の献身と、身体性を封じ込めたまま失われた時間を取り戻そうともがく土屋太鳳の葛藤が、観る者の心に静かに迫りくる。涙を弄ぶことのないウェルメイドな本作を、「泣ける」ばかりをフックにせず語り伝えるよう、宣伝もメディアも心掛ければ、鑑賞のリテラシーは向上していくだろう。
慌てず、騒がず、諦めず
「辛抱強く待ちましょう」という医師(堀部圭亮)の言葉が真の主題ではないか、と思った時、本作の節度あるタッチが素直に染みてきた。土屋太鳳はまさに迫真。それを佐藤健たち周囲の「待つ」ことに徹した芝居が柔らかく受け、徒な悪意や毒気を慎重に棘抜きした素晴らしい“善意のアンサンブル”が立ち上がってくる。
瀬々敬久はいま最も多様な題材を、様々な規模で手掛ける多作監督のひとりだが、しかし決して器用にこなす風情ではない。むしろひたすら愚直に、一本一本の世界と作法にその都度どっぷり浸かろうとする。今回も何ら斜に構えることなく「純愛」と「難病」のお題に取り組み、テクニカルな映像や語りの工夫もあくまで慎ましい。