TOVE/トーベ (2020):映画短評
TOVE/トーベ (2020)ライター5人の平均評価: 3.6
30代から40代前半にかけての恋愛遍歴
情熱的で自由を愛したトーベ・ヤンソンの半生というわけで、彼女をアーティストとして認めない彫刻家の父親との確執や保守的な美術界に挟まれての苦悩が描かれる。ただ、そこからのサクセスストーリーや「ムーミン」誕生秘話というよりは、彼女の30代から40代前半にかけての恋愛遍歴を中心にピックアップ。スナフキンやトゥーティッキ(おしゃまさん)などのキャラのモデルとなった人物が登場する面白さはあるものの、ラストを含め、かなりライトな印象を持つ。ただ、「ムーミン」における印象的なセリフの原点や、先頃のDHCとのムーミンコラボ中止の件に関しては、本作を観ることでしっかり理解できるはず。
自由と愛を求め続けた女性の心の旅路
ご存知、ムーミンの原作者トーベ・ヤンソンの半生を描いた作品。ムーミンの誕生秘話でもなければ、苦労の末に成功を掴んだ女性のサクセスストーリーでもなく、あくまでもトーベ・ヤンソンという女性の素顔に焦点を当てている。少女のように無邪気で大胆で反骨精神が旺盛、それでいて繊細で傷つきやすく愛情に飢えている。私は画家なのか漫画家なのか作家なのか、私が本当に愛しているのは女性なのか男性なのか。自由を愛しながらも自由を持て余した彼女が、やがて自らの魂を解き放つまでの心の旅路。あえてドラマチックになることを避けた淡泊な演出は恐らく賛否あると思うが、その抑制を効かせた語り口が内省的なドラマに説得力を与えている。
女性芸術家が愛と自分自身を見出すまでの物語
ムーミンの原作者としてしか意識していなかった女性トーベが本作によって、血肉の通ったリアルな存在となった。父親や権威主義な芸術界への反発からボヘミアンな生き方を選んだトーベの自由への渇望が激しく伝わる。その一方で、父親の芸術至上主義に逆らえず、自己評価が低い彼女が痛々しい。包容力のあるアトスから愛されながらも自由奔放な人妻との恋に溺れていくトーベの複雑な心模様をA・ポウスティが巧みな表情演技で表現する。破局のシーンも多く、全てが切なかった。子どもの頃に好きだった「ムーミン」シリーズには実はトーベの人生が影響していたこともわかり、奥深いメッセージを読み取れる今こそ再読すべしと心にメモ。
ムーミン世界が、この人の創造であったことを強烈に納得
ほんわかイメージが先行しがちなムーミンの世界だが、胸にグサリと刺さるセリフがあり、皮肉で社会を風刺し、何より周囲の状況に影響されず、我が道を貫くキャラも多い。その魅力の源泉を、原作者トーベ・ヤンソンの人生を真っ直ぐ見つめた本作が教えてくれる。
プレッシャーや差別に強い意志で向き合い、愛した相手への行動は積極的。静かに燃え続ける炎のような生き方。トーベ役、A・ポウスティの時間とともに成熟していく表情の変化もあり、仕事でも日常でも、新しい何かに挑戦する人の心を強烈に勇気づけるはず。
スナフキンなど人気キャラの挿入や、独特のムーミン言葉のセリフへの応用など、ファンにはうれしいサービスもたっぷり。
そうだった、ムーミンの作者はモランやスナフキンも描いていた
そうだった、ムーミンの作者トーベ・ヤンソンは、ムーミンだけでなく、触るものがすべてが氷に変わる女の魔物モランも描き、何ものにもとらわれない風来坊のスナフキンも描いた人物だった。この映画は、彼女をそうしたさまざまな面を持つ人物として描き出す。そして、なぜムーミンがあのような性格なのか、舞台でムーミンを演じる俳優に問われてトーベが答える場面があり、一見、実際の彼女とはまるで似ていないムーミンもまた、彼女の一部であることを痛感させる。
そのようにして描かれるトーベという人物が、たまらなく魅力的。北欧の物語だが、画面がずっと暖かな色をしているのは、彼女の強靭な生命力を反映しているのに違いない。