略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
雨傘運動で逮捕されて、スポンサーやレーベルから切り捨てられても音楽活動を続けるデニス・ホーの思いをすくい取った作品だ。中国政府に反旗を翻すと活動が制限され、仲間であったはずのミュージシャンからも距離を置かれる状況の厳しさがよくわかるとともに、孤独に負けないデニスの「私は私でいたい」という強い気持ちが伝わってくる。一般大衆に混じってデモに参加し、音楽を通じて自由の大切さを訴える彼女と、ドラクロワが描いた「民衆を導く自由の女神」が重なった。一国二制度を信じ、民主主義を求める活動家が次々と有罪判決を受けている今、危険を覚悟で戦い続けるデニスの姿にエールを送りたい。
小説「リプレイ」を彷彿させるループ人生を送るハメになった特殊部隊員ロイが人生リセットを繰り返し、徐々にレベルアップしていく展開。死に続けるなかで愛妻と息子が直面している状況を知ったロイが二人を救おうと苦悩するのだが、ゲームっぽくトライ回数が表示されるし、残酷な場面も不思議とコメディ調なので恐ろしさはない。家族を顧みなかった男の罪滅ぼし&人生取り戻し大作戦という側面が強く、事態の元凶である巨悪とのバトルが二の次になっているのがかなり不満。F・グリロだけにド派手なアクションを演じさせず、M・ギブソンにも適正な見せ場を与えて欲しかった。剣の達人を演じるM・ヨーの使い方ももったいなかったな。
70年代のハリウッドが舞台の、『ワンス・アポン~』的な風刺コメディ。マフィアに借金してドツボにはまった挙句、詐欺行為を思いつくB級映画のプロデューサーをR・デニーロが嬉々と演じていて、彼のコメディセンスは衰えていないと感動。物語は先が読めて単調だが、デニーロの怪演が全てをカバーしていると言っていい。またしかめっ面のT・L・ジョーンズが演じる自殺願望を持った落ち目役者も皮肉で笑えるし、マフィア役のM・フリーマンは登場すると凄みあり! 出番が少ないのが残念だが、84歳だしね。平均年齢78歳のベテラン俳優がプロフェッショナルな仕事をこなす姿を見るだけでも映画ファンにはたまらないはず。
北朝鮮の悪名高き収容所の実態を詳らかに描いていて、人権を剥奪される恐ろしさに息が詰まる。脱北者や収容所に関わった人々の証言から構成されたリアルさなので、アニメーションという手法に感謝。これを実写で見たら、トラウマになるだろう。生き延びるために心を麻痺させなくてはならない、過酷な生き方を強制される人々が存在する国とは何なのだろう? 猛烈な怒りが込み上げてくるが、生き地獄に放り込まれても人間性や優しさを失わない母娘に心洗われる。極限下で試される人間性と希望の物語であった。しかし、収容所には拉致された日本人がいたという証言があっても救出することもできない現状は実に腹立たしい。
危機が迫るなか建築家が妻子を守るために頑張る展開にさほど新鮮味はないが、家族の重要性を訴えたい製作側の意向はわかる。主人公一家に次々とトラブルを与えて、緊張感を高める演出は悪くはない。ディザスター映画なので都合が良すぎる点を突っ込んでも仕方ないのだけど、主人公の重要性がいまいち伝わらないのが難点だ。冒頭の職場からは、彼が国家の再建に必要とは思えない。G・バトラーが演じているせいもあるが、もしかしたら伝説的な元特殊部隊員なのかもと思ってしまった。パンデミックで「命の選択」が他人事ではなくなった今、選択の基準に関しては納得させて欲しかった。