カムバック・トゥ・ハリウッド!! (2020):映画短評
カムバック・トゥ・ハリウッド!! (2020)ライター5人の平均評価: 3.2
タランティーノ的な'70年代ハリウッドの内幕物コメディ
舞台は1974年のハリウッド。借金で首が回らなくなったB級映画プロデューサーが、引退した往年の西部劇スターを主演に据えた新作映画を企画。わざと危険なスタントを演じさせて事故死するよう仕向け、多額の保険金をせしめようと画策するのだが、そのたびに老優は往時の輝きを取り戻してピンチを切り抜け、気が付くととんでもない傑作映画になってしまう…というお話。虚実入り混じる70年代の映画界という点を含め、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の中途半端なスピンオフ後日譚みたいな印象。それだけに、タランティーノの偉大さが逆説的に実感できる。老人ホームに『グレムリン』のお母さんがいるので要注目。
平均年齢78歳のベテランによる渾身のギャグ
70年代のハリウッドが舞台の、『ワンス・アポン〜』的な風刺コメディ。マフィアに借金してドツボにはまった挙句、詐欺行為を思いつくB級映画のプロデューサーをR・デニーロが嬉々と演じていて、彼のコメディセンスは衰えていないと感動。物語は先が読めて単調だが、デニーロの怪演が全てをカバーしていると言っていい。またしかめっ面のT・L・ジョーンズが演じる自殺願望を持った落ち目役者も皮肉で笑えるし、マフィア役のM・フリーマンは登場すると凄みあり! 出番が少ないのが残念だが、84歳だしね。平均年齢78歳のベテラン俳優がプロフェッショナルな仕事をこなす姿を見るだけでも映画ファンにはたまらないはず。
ベテランの職人芸がサエる、思わずニヤリ……な小話
1970年代を背景にしたノスタルジックな物語ならではのオフビート感。この世界では、“役者を殺して映画製作中止用の保険金をせしめる!”という非道徳的な陰謀もすんなりとブラックユーモアに着地する。
主演のデ・ニーロはもちろん俳優役のジョーンズもマフィア役のフリーマンも、ともすれば老害にみえる(?)俺流キャラを嬉々として妙演。それぞれのキャラを立てつつ、噛み合わなかったり、ボケたりなどのかけあいの妙はベテランの味。
スケールは大きくはないが、『ミッドナイト・ラン』の脚本家G・ギャロらしい笑いや人間味が生きた。よくできた小話を楽しむ気持ちで、見てみて欲しい。
タランティーノを意識して
そもそも題材こそ、“映画業界版『プロデューサーズ』”だが、メル・ブルックスの足元にも及ばないユルさ。驚くほど、出ずっぱりなデ・ニーロはじめ、3大スター共演もありながら、かなり微妙な仕上がりだ。ノワール寄りだった前作『ポイズン・ローズ』もイマイチだったジョージ・ギャロ監督だが、とりあえず“ワンス・アポン”な設定で、映画ネタを散りばめたうえ、エンドロールに“このテ”のおまけ映像をブッ込むなど、伝説のオリジナル(1982年)よりも、かなりタランティーノにシンパシーを感じているのが分かる。終始ジャック・ブラックのものまねをしているようにしか見えないエミール・ハーシュに、★おまけ
"映画が完成する"という奇跡を舞台裏コメディに
映画が出来上がるということは、それ自体がひとつの奇跡である---という物語を、映画製作の舞台裏コメディの形で描き、ベテラン俳優たちが肩の力を抜いて演じるとこうなる。その熟練俳優たちが演じる登場人物のセリフに、ハリウッドの往年の名作映画ネタが山盛りなのも楽しく、ロバート・デ・ニーロが本作に出演した理由が、マーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』に出演したばかりで愉快なことがしたかったからという逸話にも納得。その一方で、女性監督の起用や西部劇での先住民の描き方など、現在のハリウッド事情も反映されている。映画のエンドクレジットの後にとても楽しいオマケがあるので、最後まで見よう。