ザリガニの鳴くところ (2022):映画短評
ザリガニの鳴くところ (2022)ライター4人の平均評価: 3.8
湿地のミステリー、その先にある真実とは?真理とは!?
まず、法廷ミステリーとして優れている。アイテムを活かし、伏線を回収しつつ、判決へと向かう面白さ。被告であるヒロインをグレイゾーンの存在のまま、共感を抱かせつつ描いた巧さも光る。
驚かされるのは、やはり結末だろう。ネタバレ回避のため詳細は省くが、ミステリーにオチをつけるのみならず、ドラマにしっかり筋を通すという点でも、みごとな着地。
自然と文明という、ふたつの世界。生きる世界が異なれば、生きるためのルールも異なる。“文明を作った人間エライ”ではなく、作らせたもらった自然をリスペクトしないと……などと考えた。ともかく、パンチ力のある傑作!
壮絶!“湿地の娘”のド根性物語
容疑者として立つ法廷劇から真実が明らかになるミステリーだが、軸となるのは男運のないヒロインの壮絶人生&ラブストーリーという意外性。それだけに、オリビア・ニューマン監督は『ファーストマッチ』のレスリング少女に続き、逆境に立ち向かう強いヒロインを描きつつ、ニコラス・スパークスの小説ような甘いテイストも感じさせてくれる。そして、何より“湿地の娘”に大抜擢されたデイジー・エドガー=ジョーンズが可憐な魅力で引っ張ってくれる。原作好きなら納得の映画化だが、どこかダイジェスト感が強いのも事実。いろいろと『フライド・グリーン・トマト』を思い起こさせるアメリカ南部映画として、★おまけ。
湿地の深い緑と水が魅了する
湿地の描写に魅了される。鬱蒼とした樹木に囲まれた小さな小屋。湿地の水の上に葉を垂らす濃い緑の樹木。小舟が水面に生み出す小さな波紋。大きな空の色はよく変わり、その色を水面がそのまま映し出す。ヒロインが湿地で拾う石や鳥の羽が美しく、それらが飾られた小屋の内部も、彼女がそれらを描いた画も美しい。ヒロインがこの土地を愛し、ここを離れたくないと思うのもよく分かる。
そして、原作から引用された「湿地が彼女を育てた」という言葉通り、湿地はヒロインそのものでもある。町の人々は彼女が異質であるゆえに排斥し傷つけようとするが、それが彼女の本質を変えることはない。そういうヒロインの人物像が強く印象に残る。
真実のある所
物凄い起伏に富んだ物語があるわけでもなく、キャスト面でも目を引く豪華さがあるわけでもない。それでも見始めてしまうと最後まで目が離せなくなる一本。
”特異なピュアさ”の在り方、捉え方が物語の主眼であり、それを体現したデイジー・エドガー=ジョーンズは大健闘。今後どんどんと来るかもしれないので顔と名前を憶えておきましょう。
ラストシーンも過剰に演出せず、淡々と寄り添うような優しさを感じる演出で、逆にじんわりと沁みてきます。共演者もいいチョイスですねデヴィッド・ストラザーンは相変わらず巧いです。