略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
もう何年も、アメリカでは学校での銃撃事件が多発してきた。それらの事件はただの数字ではなく、当事者たちにとっては人生を変えた悲劇。そして苦しみはずっと続くのだ。事件から数年後に顔を合わせた加害者と被害者の両親を見つめる今作は、そのことを強く思い出させる。フラッシュバックは使われず、何が起きたのかは会話を通じて少しずつ明かされていく。この密室劇を引っ張るのは、4人の役者による迫真の演技。筆者は今作を2021年1月のサンダンス映画祭で見たが、年末になっても最高のアンサンブル作はこれだと思った。アメリカならではの設定ながら、「許す」という国境を越えたテーマを語りかけてくる。
子供も大人も(おそらく大人のほうがもっと?)楽しめるミュージカル。ロアルド・ダールは、厳しい寄宿学校で体罰を受けた自身の子供時代を思い出して原作を書いたとのこと。頭が良く、反抗心のあるマチルダは彼のアルターエゴで、だからこそ共感できるのだ。子供たちによる歌とダンスのシーンはエネルギーにあふれていて最高に楽しい。特殊メイクで一見したところでは彼女だとわからない悪役のエマ・トンプソンも、ウィットに満ちていてさすが。この大役に抜擢されたアリーシャ・ウィアーは、今作で初めて映画の主演に挑戦。撮影時11歳だったというこのチャーミングで才能豊かな彼女が、今後どう活躍していくのか注目したい。
傑作がリメイクされると聞いて「なぜ?」「やめて!」と思うのは当然。だが、これは作られる意味が十分にあった。黒澤の「生きる」に忠実でありつつ同じではなく、驚くほどスムーズに1950年代のイギリスの話になっている。現代の感性を持ち、日本とイギリス両方の文化を理解している優れたライター、カズオ・イシグロによる脚本のおかげだ。オリジナルの志村喬とは違う、非常に抑制されたアプローチをしたビル・ナイも大きくそこに貢献する。シリアスで重い話の中に繊細な形でユーモア、温かさを入れ込んだ彼の演技は、さすがとしか言いようがない。オリジナル同様、本当の意味で生きるとはどういうことかを考えさせる、すばらしい感動作。
最近の「ザ・メニュー」やHBOのドラマ「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル」にも重なる、上っ面だけの金持ちを笑う痛快なブラックコメディ。格差を扱うという意味では「パラサイト 半地下の家族」にも通じるところがあるかも。最初のチャプターで展開する、男性モデルとインフルエンサーのチャラいカップルが言い争いをするシーンから、ぐいっと引き込まれた。彼らをはじめ、今作に出てくるキャラクターや展開される会話は、誇張されている中にもリアリティ、真実があるのだ。いかにもオストルンドらしい作品だが、これまでの彼の作品より入っていきやすさがあると言える。なかなかの傑作。
実際にはたくさん暮らしているのに、あまり焦点が当てられてこなかった日本で生活する移民の人々を描いたことに、まずは拍手。これは今、世界のあらゆるところで起きている現実なのだ。移民の若者を演じるキャストの多くは今作で映画に初挑戦しており、それがリアル感をさらに強めている。ただ、某ハリウッド映画に通じるところがあり、とくにクライマックスでは先が読めてしまった。「すばらしき世界」でも最高の演技を見せたばかりの役所広司は、今作でもさすが。彼と佐藤浩市のシーンは、何気ないやりとりをしているだけであっても、引き込まれる。