ファミリア (2022):映画短評
ファミリア (2022)ライター5人の平均評価: 3.2
ブラジル人移民と日本の差別と暴力と愛情の物語
“世界のトヨタ”のお膝元、愛知県豊田市にある数千人のブラジル人出稼ぎ労働者が住む団地(実在する)とその周辺を舞台にした、対立と摩擦、差別と暴力、そして交流と愛情の物語。日本の景気悪化にともなってブラジル人たちが窮地に追い込まれていく様、そこからギャングスタラップなどのカルチャーが生まれていく様などもリアルに描かれている。役所広司の老いてもなお暴力の残り香を漂わせている佇まいが素晴らしいが、とある事情からブラジル人を憎み、ブラジル人を搾取し尽くした後、虫ケラのように殺す半グレのリーダー・MIYAVIのヌルッとした存在感が光っていた。彼もまた高い志をもってこの作品に参加したのだと思う。
成島出監督なりの『KAMIKAZE TAXI』
監督デビュー前に『大阪極道戦争 しのいだれ』や『シャブ極道』の脚本も手掛けた成島出だけに、アウトローな“あの頃の”役所広司を描きたかったのは一目瞭然。ただ、南米の存在やヤクザ組織をめぐる若者との奇妙な交流など、『KAMIKAZE TAXI』と被りすぎているのはリスペクトとして捉えるべきか? もう一人の主人公である在日ブラジル人のマルコスに感情移入できないなど、脚本のツメの甘さが目立つなか、見どころは吉沢亮演じる“出来すぎる息子”とのエピソード。これがあるからこそ、終盤に向けて一気に加速するわけで、役所と旧友役の佐藤浩市の絡みに関しても間違いなく映画としての醍醐味を味わえる。
少し視点をずらすと、世界が別のものになる
少しいつもとは違う角度から見ると、世界がまるで別ものに見えるーーそれを、カメラが画面に映し出し、どこにでもありそうな団地が、まるで異世界にある建造物のように見えてくる。そして、別の国からやって来て日本で暮らす人々の目に、ここはどのように見えているのかと考えさせられる。
それと並行して、小さな町の片隅でひとりで自営業を営む男のいつもの暮らしが、彼の息子や、彼の近くで暮らす他国から来た人々を通して、いきなり世界全体の情勢に関わる大きな出来事に結びつく。ひとりの人間の普通の生活が、気づけば実は世界につながっていてすべては他人事ではない、そんな感覚が今だからリアルで生々しい。
ベテランと新人キャストの組み合わせが生むリアル感
実際にはたくさん暮らしているのに、あまり焦点が当てられてこなかった日本で生活する移民の人々を描いたことに、まずは拍手。これは今、世界のあらゆるところで起きている現実なのだ。移民の若者を演じるキャストの多くは今作で映画に初挑戦しており、それがリアル感をさらに強めている。ただ、某ハリウッド映画に通じるところがあり、とくにクライマックスでは先が読めてしまった。「すばらしき世界」でも最高の演技を見せたばかりの役所広司は、今作でもさすが。彼と佐藤浩市のシーンは、何気ないやりとりをしているだけであっても、引き込まれる。
家族になってみないか?
成島出監督は”家族”というテーマが関わると、また一層気持ちが入るというか、深い一本になるのではないかな?とそんなことを想わせてくれる新作でした。
役所広司や佐藤浩市の自然な枯れと受け、懐の深さを感じさせる演技も良かったですね。二人の息子を演じた吉沢亮とサガエルカスの二人が、それぞれの息子の在り方の理想と現実を体現しています。そして近年の映画作品で抜群の存在感と違和感を纏ってくるMIYAVIが今回もまた人の血が通った冷血な男という矛盾した様相を持ったキャラクターを演じてくれます。ものすごく派手なことが起きるわけでないのですが、滋味が深い映画です。