斉藤 博昭

斉藤 博昭

略歴: 1963年神奈川県藤沢市生まれ。高校時代は映画研究部に所属。1997年よりフリーランスのライターとしてさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。得意ジャンルはアクション、ミュージカル。最も影響を受けているのはイギリス作品です。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。

近況: 今年1月には放送映画批評家協会賞(クリティックス・チョイス・アワード)の授賞式に出席。ゴジラを手にしていた山崎貴監督とも写真を撮っていい思い出に。ビリー・アイリッシュやトム・ホランド、マーゴット・ロビー、スピルバーグなど間近で遭遇する夢のような時間でした。

サイト: https://news.yahoo.co.jp/byline/saitohiroaki/

斉藤 博昭 さんの映画短評

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  • このろくでもない世界で
    タイトルどおりの切実で凄絶な物語&演技が、演出で別次元へ
    ★★★★

    ストーリー上、ところどころ目を背けたくなる凄絶描写が仕込まれる。ある程度そこは想像どおり。しかし思いも寄らぬ感覚は別方向から襲いかかってくる。それは……魚を捌くシーンに端的なように、主人公2人の秘めた思い、自分では抗えない感情を、カメラのアングルやカット割り、編集で伝えるという高度テクニックが実を結んだから。単に俳優の演技だけに頼らない、演出の技。初長編とは思えない監督の“冴え”を感じ取ることができれば、シーンとシーンの間、つまり描かれなかった時間の恍惚に浸ることだろう。
    映画は「ろくでもない世界」を描くの好きだが、その世界に生きる意味を発見できれば作品が輝く。本作にはそのポテンシャルがある。

  • お隣さんはヒトラー?
    ヒトラー俳優としてのキャリアが存分に生かされた妙味
    ★★★★★

    アル・パチーノ主演のドラマシリーズ「ナチ・ハンターズ」でもヒトラー役だったウド・キア。そんなに似てるか?と感じつつ、何度もヒトラーを演じてきたキャリアが本作の役に説得力をもたらす。「思わせぶりな総統」をキアが楽しんで演じている様子も微笑ましい。
    滑り出しはコメディタッチながら、隣人の秘密を巡る静かなサスペンス、さらに悲哀と優しさも宿る人間ドラマ…と、微妙にムードが変化していくのも本作の特徴。そして結果的にラブストーリーのような後味がもたらされたりも。
    象徴的に使われるのが黒薔薇。「永遠の愛」と「死ぬまで憎む」という相反する意味をもつとされるこの花が、主人公2人、および作品全体のテーマと重なる。

  • 愛に乱暴
    原作の難しいパートも敢闘のアレンジ。後味は似て非なり
    ★★★★

    吉田修一のこの原作は、読む者に大きな「誤解」を与えるところが魅力。映画にするには難しいその表現が変化球でうまく脚色されたので、可能なら原作→映画の順での体験を推奨したい。
    そもそも自身のイメージを突き崩すことが得意な江口のりこも、本作はそのハードルの高さが想像できる。敢闘演技を目撃した気分。一方で小泉孝太郎の役との一体感は驚きのレベルだった。

    原作もそうだが、物語が終わって登場人物の心情が解せないモヤモヤは残る。とくに主人公には劇中で「そこまでするか?」の疑問行動もあるのだが、家族内や会社での本音と建前などリアル生活者にグサッとくる描写が丁寧なので、日常の中の落とし穴に素直に戦慄してしまう。

  • メイ・ディセンバー ゆれる真実
    結局、他人の本心はわからない不毛も、観ていて妙にワクワク
    ★★★★

    J・ムーアが冷蔵庫を開け「ホットドッグがないわ」とつぶやく。それだけの描写に大仰な音楽をかぶせる、ヘインズ監督らしい過剰にメロドラマティックな演出が、児童強姦罪で逮捕され、相手の少年と結婚した女性の運命を、シビアになりすぎず「作り物」として受け止めやすくする。
    N・ポートマンは、演じる役と一体化してしまうプロセスが『ブラック・スワン』と別ベクトルの危うさで魅了。
    意外に感動したのは、10歳ちょっとしか年齢が変わらない実の息子と父親が、屋根の上で会話するシーン。この家族しかわからないであろう感覚を共有できた。
    シンプルに、俳優が演じる本人と会って役作りをする過程をリアルに体感できるのが貴重かと。

  • フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
    歴史を変える挑戦を軽やかに、映画っぽく描いて予想外の爽快感
    ★★★★★

    その題材に大して興味がない人も、観てみたらドラマやキャラの面白さを素直に楽しんでしまうかも…。そんな「映画の本質」で推したい一作。
    アポロ月面着陸のフェイク画像を作ろうとする部分で、70年代の名作『カプリコン・1』と重ねつつ、こちらは一難去ってまた一難を乗り越える痛快さと爽快さが前面で、とにかく気持ちいい。
    タイトルが示唆するように、50~60年代のさまざまな名曲(しかも王道とは違うアーティストのバージョン多用)が、シーンと最高の合体をみせ、時代ならではの「ユルさ」の楽しさへの変換、前人未到チャレンジでの脇役の活躍、ロマンスの予感など、ここ数年で失われかけたアメリカ映画の美点が復活した喜びも!

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