お隣さんはヒトラー? (2024):映画短評
お隣さんはヒトラー? (2024)ライター3人の平均評価: 3.3
基本、コメディタッチだが内実はとてもシリアス
W主演のひとり、ホロコーストの生き残りの主人公が少々、強迫観念が強く、偏屈そうな老人キャラなのが肝要だ。時と場所は1960年、南米のコロンビア。つまり、引っ越してきた隣人のことを(根強く生存説が流布されていた)アドルフ・ヒトラーではないかと疑うのだが、明らかに勇み足で、そんな“善なる狂信的キャラクター”を燻し銀アクター、デヴィッド・ヘイマンが巧みに身に纏っている。
そして、隣人を演じるのが怪優ウド・キアということで、主人公の妄想を膨らませるに足る存在感で対峙する。その二人の距離感の伸縮がドラマとなっていくわけで、後半、妄想と現実が一致する瞬間がスリリング。やや粗い脚本がもどかしいけれども。
汝の隣人を愛せよ
ホロコーストの悲劇を描くのではなく、その後を生きる者のドラマとして興味深く観た。
ヒトラーかもしれない隣人は頑固者だが、ホロコーストを生き延びた主人公の老人も相当に偏屈で、その軋轢がユーモアを演出。主人公の暴走が時に“やり過ぎでは…”と思わせるのが妙味であり、偏見にとらわれがちな人間の性に対する風刺となってにじむ。
英国の名優D・ヘイマンと、ドイツ人の冷血漢といえばこの人(?)U・キアのかけあいも面白く、きっちり人間味を漂わせるのも巧い。ヘイトにとらわれがちな現代にも有効なテーマを持った佳作。
ヒトラー俳優としてのキャリアが存分に生かされた妙味
アル・パチーノ主演のドラマシリーズ「ナチ・ハンターズ」でもヒトラー役だったウド・キア。そんなに似てるか?と感じつつ、何度もヒトラーを演じてきたキャリアが本作の役に説得力をもたらす。「思わせぶりな総統」をキアが楽しんで演じている様子も微笑ましい。
滑り出しはコメディタッチながら、隣人の秘密を巡る静かなサスペンス、さらに悲哀と優しさも宿る人間ドラマ…と、微妙にムードが変化していくのも本作の特徴。そして結果的にラブストーリーのような後味がもたらされたりも。
象徴的に使われるのが黒薔薇。「永遠の愛」と「死ぬまで憎む」という相反する意味をもつとされるこの花が、主人公2人、および作品全体のテーマと重なる。