クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落 (2012):映画短評
クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落 (2012)ライター3人の平均評価: 4.3
この感覚がないと大富豪にはなれません
本作を観賞すると、誰もが自身の邪悪な心に気付かされるだろう。恐らく、普通に大富豪を密着していただけなら単なる嫌味な作品になっていただろうが、リーマン・ショックで転落し、ドラマチックな展開に。当事者たちには悪いが、「人の不幸は蜜の味」なのだ。
なのに人間の欲深さは止まらない。夫は借金を抱えても尚、夢のベルサイユ宮殿造りに固執し、妻は変わらず物欲に走る。他に顕示欲に支配欲など、ありとあらゆるあさましき姿をカメラの前で晒す彼ら。規格外の人間の予想外の言動の数々は、この感覚がないと富豪になれないんだという歴然とした格差を我々に見せつける。でも平民で充分…そんなささやかな幸せを実感するはずだ。
アメリカ的家族の絆の物語(ネジれてますが)。
撮影途中に起きたリーマン・ショックのため、結果的に転落していく(といっても我々から見ると充分贅沢だが)大富豪。いかにもアメリカンな話であって、嗜虐的に嗤い飛ばすだけの映画かと思えばさにあらず。そりゃあブッシュJr.の再選に暗躍したとか、諸々の悪行(笑)は垣間見られこそすれ、夫婦ともに貧しい境遇から一代で成り上がった叩き上げだけあって、いったん摑んだ富への執着はハンパじゃなく、経済観念の自堕落さと美意識の壊滅的な欠如はありながらもちっとも憎めないのが面白い(子供たちは意外にクール)。むしろ「獲物の死を待つハゲタカ=銀行」の餌食とされるしかない彼らへのヒロイックな挽歌のように見えてきさえするのだ。
人工美のトロフィー・ワイフ、でもハートはゴールド
富豪夫妻の栄枯盛衰がオスカー受賞の脚本家でも思いつかないくらいに紆余曲折だらけで、もう面白いのなんのって。まさに他人の不幸は蜜の味? ベルサイユ宮殿のコピーを思いつくのをはじめ、まんべんなく成金趣味な夫妻の言動に開いた口がふさがらず。でも貧乏になった途端に俄然、輝き始める女主人ジャッキーが素敵だ。豊胸手術で手に入れたDカップを揺らしながら家族をひとつにまとめようと苦心し、常に明るい笑顔とボトックスを忘れない。富豪と再婚したトロフィー・ワイフだが、ハートがゴールド。資産より家族を愛する彼女がいれば一家は安泰と思わせる家族ドラマに仕上げた監督の着眼点が優しい。