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ペーパーボーイ 真夏の引力 (2012):映画短評

ペーパーボーイ 真夏の引力 (2012)

2013年7月27日公開 107分

ペーパーボーイ 真夏の引力
(C) 2012 PAPERBOY PRODUCTIONS,INC.

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

清水 節

劇場は色情狂ニコールの痴態を覗く湿地帯の風俗店と化す

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 猛暑が人を狂わせるのか。今夏の不快なまでの暑さは、劇中の出来事に没入させる舞台装置として、もってこいだ。この気怠くいかがわしく危ない映画は、茹だるような1969年夏のアメリカ南部を舞台に、誰もが常軌を逸していく非日常を目の当たりにさせる。
 
 道を見失い悶々とするザック・エフロンの視点から、殺人事件の闇へと分け入る。冤罪の可能性もある死刑囚ジョン・キューザックの爛れた怪演もさることながら、彼と獄中結婚し“色情狂の四十女”と蔑称されるニコール・キッドマンの壊れっぷりに圧倒される。これぞ女優魂と客観視していられぬほどに発情しまくり、うぶなザックを、いや観客をも扇情し、劇場はさながらニコールの痴態を覗く湿地帯の風俗店と化す。ところが、それに輪を掛けて凄まじいのがザックの兄役・新聞記者マシュー・マコノヒーの正体なのだ。
 
 表の顔とは異なるハリウッド・スターの腐臭漂う存在感によって描かれるもの。それは解明不能なアメリカ社会の暗部だ。差別、虐待、倒錯、悪趣味。つゆだくの肉欲とどこからともなく漂う血生臭さにイカレっぱなしになった後に訪れるのは、測り知れない絶望である。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

生々しくもスリリングな青春残酷物語

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 リー・ダニエルズ監督の前作『プレシャス』は文句のない力作だったが、不幸が畳みかける凄まじい展開に現実味が薄れてしまったことも否定できない。その点、この新作はぬるま湯のような日常に慣れた等身大の男子が主人公だから、共感を持ってみることができた。
 青春残酷物語であることに変わりはない。性欲の隠匿と悶々、人種問題に対する理想と現実、信頼と裏切りなどなど、これらの主人公の価値観は劇中で激変する。これらがひと夏のうちに一気に起こるのだから、そりゃあ難儀だ。感情がジェットコースターに乗っかったまま、とんでもないところに連れて行かれたようなそんな気さえしてくる。
 ニコール・キッドマンの××演技や、マシュー・マコノヒーの××演技(自粛)もインパクト大で、意外性満点。すべてを暑さのせいにしてしまえる構造も美しく、ひたすら圧倒された。今夏もっとも好きな映画かもしれない。

この短評にはネタバレを含んでいます
中山 治美

先輩俳優からアイドル・ザッ君への強烈な洗礼

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

新作が公開される度に“脱アイドル“が宣伝に謳われるザッ君ことザック・エフロン。だがアイドル臭はそう簡単には消せず、世間の評価も変わらない。ならばとイメージを逆手に取り、本作では猛獣の檻に放り込まれた震える羊に徹した。しかし、彼の周りで暴れまわる大人たちがあまりにも強烈過ぎて、むしろザッ君の脱アイドルへの道のりは、相当長くなるであろう現実を見せつけてしまった。ジョン・キューザックはだらしない肉体と寂しい頭髪で死刑囚を演じ、その死刑囚に恋した“性欲の強いバービー人形“のニコール・キッドマンは終始ハァハァし、そしてマシュー・マコノヒーは恥辱プレイを披露。カメラの前で役者の業をさらけ出す先輩たちとザッ君の差は歴然だ。もっとも本作の場合、彼らの異常さが際立ったせいで、時代や土地柄といった殺人事件の背景は薄れ、単なる猟奇殺人事件になってしまった。やり過ぎ禁物。これも反面教師にしなければネ! ザッ君。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

理想主義を木っ端微塵に打ち砕く悪夢のひと夏

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

世界各地にリベラル革命の嵐が吹き荒れた1969年の夏を舞台に、貧困や差別の問題が深刻なアメリカ南部で起きた殺人事件の衝撃的な顛末が描かれる。当時の反体制的な社会気運に感化されたであろう主人公たちは、逮捕された容疑者の冤罪を立証すべく奔走するわけだが、そんな彼らの中産階級的なモラルと理想主義を、本来なら守られるべき立場の弱者が木っ端微塵に打ち砕いていくのだ。社会の底辺で虐げられてきたからこそのずる賢さや意地汚さを体現した容疑者ヒラリー、衰えかけた美貌とセックスを武器にするしかない無教養の中年女シャーロット。この2人に関わってしまったがため、無垢な若者ジャックは悪夢のような体験をさせられる羽目になる。そんな彼を翻弄するシャーロット役ニコール・キッドマンの、ぶっ飛んだアバズレ演技がとにかく凄まじい。アメリカンニューシネマを彷彿とさせるリー・ダニエルズの演出やマリオ・グリゴラフの音楽も見事。通り一辺倒な善悪の概念など到底太刀打ちできない、現代にも脈々と受け継がれるアメリカ社会の深い病巣をえぐり出した秀作である。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

DQNな黒ニコール必見! こんな「ひと夏」はイヤだ!

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

とりあえずニコール・キッドマンのどうかしてる振り切れっぷりだけで一見の価値は大あり! 40歳代半ばにしてDQNな金髪ビッチをノリノリで爆演し、『誘う女』(95年)の野心丸出しなお天気お姉さんの印象を鮮烈に更新。まさに彼女のキャリアの極北だろう。このハードコアな「年上の女」に、暇な童貞男子(ザック・エフロン)が恋心を抱きつつも、猟奇殺人事件をめぐる暗黒のミステリーにずぶずぶと絡め取られていく内容。普通なら甘酸っぱい「ひと夏の体験」を、悪夢的に引っくり返したような濃厚さ。舞台は1969年、保守的な米南部(フロリダ州)における人種差別や貧困が社会背景としてあり、とりわけホワイト・トラッシュ、ヒルビリーと呼ばれる田舎の白人たちの闇に焦点を当てる。監督は『プレシャス』のアフリカ系アメリカ人、リー・ダニエルズ(『チョコレート』のプロデューサーでもある)だが、「もしヴェルナー・ヘルツォーク監督がアメリカン・ニューシネマを撮っていたら…」という連想が働いてしまった。フリーキーな魅力では最近群を抜いている!

この短評にはネタバレを含んでいます
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